東京外国語大学

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世界とっておき情報―メキシコ独立記念日、国民の思い

今から5年前にスペイン語と出会い、ラテンアメリカの魅力に取りつかれてから初めてやってきたメキシコ合衆国。私にとってラテンアメリカ初の滞在国である。これまでこの国、この地域に関する資料は多く目にしてきたものの、やはり百聞は一見に如かずと思う点が多い。

メキシコに来て約1カ月が経つ9月16日。この日はこの国にとって重要な日である。メキシコ独立記念日だ。2~3週間ほど前から町は緑、白、赤で装飾が施され、道端ではメキシコの国旗や三色のアクセサリー等が販売され始める。私の通う学校でもメキシコカラーに飾り付けがなされ、中庭ではメキシコの伝統料理や民芸品が販売されていた。

前夜、メキシコシティの中心地ソカロや、私の住む観光地区コヨアカンでは真夜中まで屋台が立ち並び、移動遊園地が設置され、野外コンサートが行われ、数え切れないほどの人で町は大賑わいとなる。サルサの演奏が始まるとすかさず踊り出し、有名な民謡が演奏されると老若男女問わず口ずさむ。陽気な夜の始まりだ。皆、思い思いの独立記念を祝った衣装に身を包み、深夜を今か今かと待ち望む。

午後11時、ソカロではメキシコ大統領が、またメキシコシティの各地区ではそれぞれの首長が簡単な挨拶の後、鐘を鳴らし、「メキシコ万歳」と叫ぶ。その掛け声に合わせ、広場に集まった人たちも一緒に「VIVA !(万歳)」と叫び出す。次に独立に携わった数々の人の名前とともに、「万歳」と繰り返す。広場は数分間、万歳の掛け声の嵐に包まれる。これは1810年9月16日の早朝、司祭イダルゴがドロレスの教会の鐘を鳴らし、スペイン人の追放を訴え、「メキシコ万歳」と発声したことで有名な「ドロレスの叫び」に由来する。万歳がおさまると、国歌の大合唱だ。子供たちも元気いっぱいに国歌を歌い出す。歌が終わると、拍手喝采となり、間もなく夜空に花火が打ち上がった。メキシコカラーの花火がこれでもかと言わんばかりに夜空を染める。広場に集まった人は皆、曲に合わせて上がる花火を見つめて自国の独立記念を祝う。

独立記念日当日の9月16日。中心地ソカロでは朝から報道陣が集まり、軍事パレードが執り行われる。予想以上に規模の大きいパレードに正直私は驚いた。家に居ながらテレビで生中継を楽しんだのだが、日本では見ることのない軍事パレードのパフォーマンスに釘付けになった。私は3年ほど前にフランスに1年間滞在した経験があり、7月14日の革命記念日にシャンゼリゼ通りで行われた軍事パレードもテレビで見たのだが、映像を通した印象では、フランスよりもメキシコのパレードの方が規模や迫力、軍事パレードにかける思いが大きく感じられた。

メキシコに到着してまだ間もないが、時折この国の人々は愛国心が強いと思わせられることがある。理由はまだ今の私にはうまく説明できないが、この1年でさらに「メキシコ」とはどんな国なのか肌で感じながら過ごしていきたい。土着の文化を持ちながらも、植民時代を経験し、独立を迎え、発展し、数多くの人種が混ざり合い、国際社会において大きな存在感を示すまでとなったこの国を知ることは、これからの社会を考える上で必ずや大きなカギとなると信じている。


東京外国語大学 大学院総合国際学研究科
世界言語社会専攻
博士前期課程2年  八角(やすみ) 香

【掲載日:2017.9.22】