2010年1月 月次レポート(及川 茜 シンガポール)
ITP-AA 月次レポート(2009年1月)
博士後期課程 及川 茜
シンガポール国立大学(2009.8-2010.2)
年が明けたかと思うと、すっかりクリスマスの電飾が街から姿を消し、代わりに旧正月向けの赤い灯籠が各ショッピングモールを彩っている。普段は洋楽ばかり流しているスーパーも、この季節ばかりは中国語の正月向け歌謡曲一色である。
シンガポール国立大学(NUS)では1月11日から後期が始まった。私の留学期間は2月いっぱいで終了のため、今期は最後まで授業に出席することはできないが、指導教授である容世誠先生の担当するゼミを二つ聴講させて頂くことになった。一つは中文系(Chinese Department)の院生を対象にした論文執筆のゼミである。参加者の研究領域は言語学から文学、歴史と多岐にわたっており、先行研究を博捜してその領域の動向を見極め、自分のテーマを見つけ出すところから始まり、資料収集の方法などかなりプラクティカルな内容を指導しているという印象を受けた。特に、NUSの中文系では英語と中国語双方の高度な運用能力が要求され、中国語圏だけではなく英語圏を含めた全世界に向けて研究内容を発信することを前提とした指導が行われている。また、このゼミは単独で存在するのではなく、中文系全体の連携の上に成立しており、学生はゼミの課題に取り組む過程でそれぞれの指導教授と相談を重ね各自の研究を進めるようなシステムができている。学生と教員との一対一の関係だけではなく、中文系全体で各院生に目配りをしているといえるだろう。もう一つのゼミは《Culture and Society through Literature》という題目で、毎週課題図書を読んで討論するものである。こちらも院生対象だが、中文系だけではなく歴史学科などからも参加者がおり、各自の研究領域や問題意識にはかなり幅があるため、様々な観点からの意見が提起され興味深いものである。学生もみな欧米の理論について非常に詳しいのに驚かされた。こうした国際的に共有される術語は、自分の研究を大きな文脈に位置づけ、特に異なる専門領域の相手と対話する際に討論の基礎を作るのには有効であるということを感じた。ただ、同時に、自分の研究に生かすには非常に細心に咀嚼せねばならないとも感じている。この点に関しては、帰国後も引き続きよく考えて消化せねばならない課題であると思っている。また、ゼミに出席するに際しては、個人的な問題として言語の問題がまだ残る。参加者の出身地域は様々だが、共通点は中国語が母語ということで、自分ひとりだけ母語話者でないという状況ではつい気後れを感じ、なかなか討論に入って発言することは難しい。一朝一夕に中国語の表現能力を向上させるのは困難にせよ、限られた時間の中で、機会を有効に生かして積極的に発言できるようにしなければならないと、毎回襟を正して授業に臨んでいる。
論文に関しては、年明け早々に容先生の研究室に伺い指導を受けた。テキストの精読と周辺資料による傍証の段階まで作業を進めているが、論文にまとめるに際しての注意点を幾つか頂いた。帰国までに初稿を仕上げられるよう、計画的に進めてゆきたい。同時に、国内の学会発表に応募するべく準備を進めている。
帰国まで残り一ヶ月を切り、なかなか思うように成果が上がらず焦る部分もあるが、出来る限り新しいことを吸収して帰国できるよう、一日一日を有効に活用したい。