2010年6月 月次レポート(中田俊介 フランス)
ITP-EUROPA月次報告書6月
中田俊介(フランス、エクス=マルセイユ第一大学)
6月以降のエクス=アン=プロヴァンスでは、冬のように寒かった5月が嘘のような陽気が続いています。日中には気温は30度を超えるようになりましたが、湿度が低いため日陰は涼しく、暑さもそれほど不快ではありません。エクスには、私の在籍するエクス=マルセイユ大学文学部をはじめ、同法学部?応用経済学部、工業大学、音楽院、英語師範学校など多くの学校があり、町の活気の源となっていますが、これらの学校も多くがヴァカンスに入り、里帰りや旅行に町を離れる学生が増えています。一方で、観光客はますます増え、週末の旧市街中心部では、人の多さに前に進むのが大変なときもあります。
私はエクス=マルセイユ大学の学生でありながら、指導教官がCNRS(国立科学研究センター)の研究機関のひとつである言語?音声研究所(Laboratoire Parole et Langage、通称LPL)に所属する研究者であるために、実質的には同研究所の博士課程学生になっています。LPLでは40名ほどが研究と教育に、30名ほどが研究のみに携わっています。80人ほどの博士課程の学生が在籍し、日本からは私を含め現在2名が来ています。
LPLでは、実験音声学、コーパス言語学、計算言語学、語用論?談話分析?方言学?マルチリンガリズムなどの社会言語学、言語病理学、神経言語学など、さまざまな側面から言語を研究する研究者が集まっているため、複数分野にまたがるようなテーマに取り組む学生には、同じ建物にいながら、さまざまな教官からそれぞれの領域についてのアドバイスを得られるという利点があります。また博士課程の学生同士の交流についても同じことが言えます。
私自身の研究であるフランス語イントネーションの分析では、言語資料としてLPLが構築したCID( Corpus of Interactional Data)を用いていますが、これは全体として8時間からなる2人の対話の音声と映像を記録したものです。同コーパスは、LPLの談話分析を専門とする研究者たちによって2006年につくられ、以後、形態素のタや韻律的特徴のアノテーションなど、研究者や博士課程の学生による分析の成果は共有できるかたちで蓄積されてきました。
私の博士論文にとっては、音節の構成要素別の持続時間や周波数の変化など、30分間でも膨大な情報量となる音声学的分析において、8時間のコーパス全体を資料とすることは不可能なため、今回見出したい音声特徴である語頭?語末の高さアクセント(イントネーションの構成要素)が現れやすい10数個の統語構造についてコーパスを分析しています。そのために、コーパスから対応する構造を検索して収集する作業では、統語構造や音節数など複数の条件を設定して、得たい構造を呼び出すプログラミングが必要ですが、それはコーパス言語学?自然言語処理を専門とする教官から助力?アドバイスを得ることとなりました。
また収集されたデータの分析の段階では、妥当な統計的手法の選択が重要な課題になりますが、これは統計的なデータ処理?モデル構築を専門とする教官に聞きに行っています。指導教官は韻律的特徴およびその知覚が専門であり、川口教授とともに論文の構成や仮説の詳細、また他の誰にどのタイミングでアドバイスを得るべきかなどについて指導を受けています。また仮設の根拠となる理論的な部分では、先行研究として参照している中で最も新しい研究を行っているPauline Welby氏がLPLの研究者であり、直に会ってアドバイスを得られることは大変貴重なことと感じています。
研究所は8月初旬に夏休みに入り、7月下旬にはヴァカンスに入る研究者も多くなります。こちらに派遣していただいている利点を、最後までできる限り引き出すべく、努力を続けたいと思っています。
LPL玄関 LPL内部