2010年6月 月次レポート(石田聖子 イタリア)
月次レポート
(2010年6月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])
イタリアの公立学校が早くも夏休みを迎える今月に入ると、ほんの一か月前まで厚手のコートが必要な日さえあったとは信じられないくらいに暑い日が続くようになった。一方で、ジェラートを手にそぞろ歩くひとの姿が目立つようになるなど、街中にも夏らしい活気がみられるようになった。
そんな今月に入ってからは、博士論文の第三章の執筆を本格的に開始した。現在執筆中の第三章第一節では、アルド?パラッツェスキ(Aldo Palazzeschi: 1885-1974)の初期三詩集(『白馬/I cavalli bianchi』[1905]、『ランタン/Lanterna』[1907]、『詩集/Poemi』[1909])に収録される詩作品における主体のありかたに着目し、それをめぐる表象の変遷を追いながら、主体が、徐々に武器としての笑いを見出し、次いで、獲得してゆくさまを明らかにすることを目的としている。同節にてはまた「笑いの世紀」と別称されうるほどに20世紀に笑いが興隆した理由にも社会的背景に関連付けて言及することから、同節は、当該章ばかりでなく論文全体の主旨にも直接関連する重要な箇所だと考えている。
ところで、執筆したものがある程度まとまった量に達した月半ばには、派遣先大学指導教員のもとに原稿を持参して指導を仰いだ。指導教員による指導内容は、専ら、論文の論理構造の面にまつわるものであった。引用を主とする前章と比較して、現在執筆中の章では派遣者独自の考察が軸となることとも関係しているらしい。従って、現在は、指導教員による指摘を反芻しながら、通常の執筆作業と並行して、すでに執筆した箇所の検討、及び、再構成作業を行っている。
さて、この時期、ボローニャでは、修復映画祭<Il Cinema Ritrovato 2010>が開催されている。今年で第24回目を数えるボローニャの夏を彩る恒例のイベントであり、今年は今月26日から来月3日までのわずか8日間のうちに300本以上もの映画の上映が予定されている。魅力的な上映作品、特集こそ数多くあるものの、さすがにそのすべてを網羅するのは不可能であるために、派遣者は、研究と最も深く関連する「100年前:1910年のヨーロッパ映画(Cento anni fa: film europei del 1910)」特集と喜劇的要素を含む映画を優先することに決め、それらを中心として鑑賞スケジュールを組み、日々、せっせと会場に足を運んでいる。これまで鑑賞機会に恵まれなかった作品を鑑賞できるのはもちろんのこと、タイトルや存在さえ知らなかったフィルムとも出合え、加えて、前出の特集では、「短編映画の未来 ―記録、科学、喜劇(Il futuro del corto ―Attualita, Scienza, Comicita)」、「風景と物語(Paesaggio e narrazione)」、「1910年の色:現実と空想を彩る(I colori del 1910: colorando realta e fantasia)」等、上映回毎にテーマを設定しての上映を実施しているために鑑賞もしやすく、派遣者にとり、大変に有意義な機会となっている。
ボローニャ修復映画祭のポスター。メインイメージは今年の映画祭にて修復版が公開された
『山猫/Il gattopardo』(ルキーノ?ヴィスコンティ監督、1963年)から。