2012年12月 月次レポート(太田悠介 フランス)
ITP-EUROPA月次報告書(12月)
太田 悠介
今月はパリ13区の国立図書館での作業に多くの時間を割いた。博士論文に関連する文献を読み進め、当該文献の大意をまず確認する。その後、博士論文で引用する予定の箇所を書き留めてゆく作業である。その間には、11月半ばに刊行されていたバリバールの新著『世紀――文化、宗教、イデオロギー』(Etienne Balibar, Saeculum. Culture, religion, ideologie, Galilee, 2012)にもようやく目を通した。同書はフランスの公立学校におけるいわゆる「スカーフ」論争を題材とし、2009年にレバノンのベイルートで行った講演をもとにした100頁ほどの小著である。博士論文でバリバールのモノグラフの完成を目指す報告者としては、この「スカーフ」論争への介入という直接の動機だけには限定されない、「文化」、「宗教」、「イデオロギー」をめぐるバリバールの基本的な立場が伺える叙述にとりわけ関心を惹かれた。そのような箇所は今後できる限り博士論文に取り入れるつもりである。
また今月は、以前投稿した2本の論文の査読結果をほぼ同時に受け取った。いずれも報告者の論文の意義を押さえたうえで、その問題点の所在を明らかにするという大変丁寧な査読結果であった。博士論文の執筆との兼ね合いが難しいが、投稿論文で論点を明確にすることで博士論文の執筆が進むように、可能な限り修正を加える所存である。さらに雑誌『現代思想』から小文の依頼をいただいた。これに関しては、博士論文の研究の一部をフランスの現在の社会状況と結びつけるかたちで論じてみたいと考えている。具体的には「ポピュリズム」を扱う予定であり、これに関する文献の渉猟を始めている。
以上の作業と並行して、11日にはパリ第8大学のジャン=ルイ?デオット教授とアラン?ナゼ氏が主催するセミナー「イメージの政治」に参加し、ミュリエル?ヴァン?ヴリエ氏の報告「動く人間の人類学――カッシーラーとヴァールブルク(Elements pour une anthropologie de l'homme en mouvement. Cassirer et Warburg)」を拝聴する機会を得た。ヴリエ氏はすでに博士論文を提出しており、同論文が来年初頭に刊行予定とのことであった。2時間近くにわたる長時間の発表にもかかわらずきわめて濃密な発表で、論旨が明瞭に整理されていることが分かる発表であった。カッシーラーとヴァールブルクそれぞれについて初めて体系的な紹介を聞くことができたのはもちろんのこと、ヴリエ氏の発表からは議論の組み立て方など形式の面でも学ぶことが多く、収穫の多い一日となった。