2013年10月 月次レポート(水沼修 ポルトガル)
月次レポート(10月)
水沼 修
今月,グルベンキアン財団(Fundacao Calouste Gulbenkian)より,ポルトガル語の文法書「Gramatica do Portugues」の第1巻と第2巻が刊行されました.同書は,グルベンキアン財団とリスボン大学言語学研究所(Centro de Linguistica da Universidade de Lisboa)が中心となって2000年に立ち上げたプロジェクトの成果であり,全3巻からなるポルトガル語の文法書です(第3巻は2015年の刊行が予定されています).
ブラジルやアフリカにおけるポルトガル語に関する章も設けられていますが,基本的には,現代欧州ポルトガル語(地域方言も含む)の音(音声学?音韻論),形態,語彙,統語,意味といった幅広い分野に関して,それぞれを専門とする研究者によって詳細な記述がなされています(なお,同書は,スペイン王立アカデミーの「スペイン語記述文法(Gramatica Descriptiva de la Lengua Espanola)」を模範として構成が編まれたそうです).
あくまで現代語に関する記述が中心ですが,第1巻の第1部では,ポルトガル語の歴史(第1章?2章),ロマンス語の枠組みにおけるポルトガル語(第3章)といった章や,また,第2部では,語彙化(第9章)や文法化(第10章)についても個別に章が設けられています.
特に文法化に関する章は,自分の博士論文の研究にとりわけ関係の深い分野であるため,大変興味深く読むことが出来ました.これまでも,Castilho(1997)1などを除くと,文法化についてポルトガル語で書かれた研究書はあまり多く存在しなかったこともあり,比較的最近の研究を踏まえた上で,このようなまとまった形で書かれた文法化に関する記述に触れることができることをとてもありがたく感じます.
この章の中で,文法化のプロセスについて議論する際,ter及びhaverの助動詞化を例に挙げて説明がなされています.複合時制と直接関連のある話こそあまりありませんでしたが,ポルトガル語における助動詞化という大きな枠組の中での,ter/haverの特徴について再考するきっかけとなりました.特に,発展の過程において,どの時期から助動詞と考えることができるのかについて,ter/haver以外の助動詞化のケースと比較しながら考慮していく必要性があると感じました.
ポルトガル語の文法書としては,これまで,Editorial Caminhoから刊行されている「Gramatica da Lingua Portuguesa(Mateus et al.)」が,研究書において多く参照されてきていました.ポルトガル語の研究を行う上で,今後は同書に加えて,「Gramatica do Portugues」が, 研究の出発点となることでしょう.自分も,時間が許す限り,なるべく多くの章に目を通して行きたいと思います.