2011年10月 月次レポート(堀口大樹 ラトヴィア)
10月報告書 堀口大樹
報告者は、ラトヴィアの首都リーガにあるラトヴィア大学人文学部ラトヴィア語学?バルト語学科のラトヴィア語学?一般言語学コースの博士課程で研究活動を行っている。博士課程の授業開始が10月10日からであったため、到着した9月30日からは、事務手続きや身の回りの整理をした他、修士課程や学部の授業を聴講したり、こちらで手に入れた文献を読んでいた。
言語学専攻の博士課程の授業では、今月開講されている2科目の授業を聴講した。その他の授業は、修士課程の授業2科目、学部の授業2科目を聴講している。
今月の最大の目標は、10月24日から27日まで首都のリーガを中心に行われた、「第3回世界ラトヴィア人研究者大会兼第4回ラトヴィア学大会」での研究発表であった。この学会は、人文学、社会学、医学、技術、農業、スポーツ学といった8つの学問分野、45のセクションからなる大会である。参加国はラトヴィアを中心に、数カ国からの参加があった。大会の主催は、ラトヴィア科学アカデミーと首都リーガにある複数の大学であり、大会の名誉主催者は元大統領、開会式には現大統領も出席するなど、「学問の祭典」と呼ばれており、4年から5年に一回の周期で行われる。
派遣者は言語学のセクションの一つ「ラトヴィア語学の理論と方法論」で発表をした。発表題目は「Priedēk?i kā internacionālismu ?nationalizācijas? līdzek?i(Prefixes as means of internationalisms' ?nationalization?)」で、博士論文で扱うラトヴィア語の動詞接頭辞付加のテーマであり、規範的な言語使用を推進する「言語文化論」から批判されることの多い外国語起源の動詞への接頭辞付加を、動詞のアスペクトと話者の主観的評価、動詞接頭辞付加の表現性に絡めて論じた。
質疑応答では2つの質問がなされた。同セクションでリトアニア語の接尾辞の研究で、派遣者と似た研究手法を取り入れているリトアニアからの参加者から、ラトヴィア語の外国語起源の動詞に関する簡単な質問が提起されたほか、ラトヴィア人の研究者からは、発表内容で示した数量データの背景の説明が求められた。後者の質問に関しては、このデータが今年6月にリトアニアで発表した同様の研究で出た結果を引用したものであり、数量データの背景をすでに分析をしていたため、恙なく質問に答えることができたように思える。またその数量データが、母語話者の感覚と一致しているというコメントも同時に頂けた点がよかった。
研究発表の前には、ラトヴィア国立テレビから取材を受け、自己紹介、自分とラトヴィアとの出会い、研究テーマ、日本におけるラトヴィアの認知度などの質問を受けた、これは10月30日の「TOP10」という1週間のニュースをまとめた同局の番組内で、同大会に参加した外国人研究者として紹介された(http://www.tvnet.lv/online_tv/
17238 9分35秒以降の映像をご覧下さい)。
学部生向けに開講されている「言語文化論」の授業を聴講しているが、この授業では、「言葉の乱れ」とされるものにどのようなタイプがあるのかを、実際の言語資料で体系的に分析をする「言語文化論」は特に東欧?ロシアに20世紀に根づいた、極めて一般教養的な性格を持つ言語学の一分野とされ、広く「言葉の乱れ」と言われる現象を指摘?訂正したり、その乱れの分析を行う。外国人から見れば、この「言語文化論」で批判される言語現象(動詞接頭辞付加も関与している)と言語学者が推奨する案は、言語の規範と規範からの逸脱、理論と実態、学問としての言語学と社会、言語学者と一般の話者というパラレルを一度に示してくれる点で非常に興味深い。ラトヴィア人の学部生と共に言語資料を分析する上で、母語であるラトヴィア語についての彼らの意識を垣間見ることができ、毎週楽しみにしている。
Andra Kalna?a指導教員を中心に、学科の他の講師達に、博士論文や今月の研究発表の問題意識を話したほか、博士論文の中で彼らの研究領域に関わる問題について、授業や休み時間を利用して相談をしている。