谷口 龍子 TANIGUCHI Ryuko
- 役職
- 大学院国際日本学研究院 准教授
- 研究分野
- 言語学、語用論、日本語教育
私は語用論と談話分析を専門に研究しています。語用論とは言葉の「言外の意味」を研究する分野であり、談話分析とは、談話の中で言葉の送り手と受け手の間にどのような相互作用が起こるかを研究する分野です。
ある言葉を口にした時、そこには直接言葉としては表現されない、別の意図が含まれていることがあります。この「言外の意味」を理解しないかぎり、会話でうまくコミュニケーションすることは難しいでしょう。例えば、「すみません」という言葉は謝罪だけでなく、感謝や呼びかけ、断りや要求などさまざまな意図で使われます。電車の中では「そこをどいてください」という意味で使われますし、「すみません、でも」というように、反論のための前置きとして使われることもあります。
このように、同じ言葉でも、使われる場面や状況によって、送り手の意図や受け手の解釈は異なります。送り手の意図と受け手の解釈が、必ずしも一致するとはかぎりません。こうしたギャップの存在は、外国語を習得する際にも大きな障害となります。
例えば、留学生を悩ませる言葉の一つに、「お近くにお越しの際は、お立ち寄りください」という表現があります。これは社交辞令の定型表現ですから、日本人はそう言われても真に受けたりはしない。ところが、留学生は社交辞令であるということがわからず、言葉通りに受け取ってしまいます。「自分は招待された」と勘違いして相手の家を訪問し、迷惑がられてショックを受けるのです。こうした「言外の意味」を汲み取り、真の意図を正しく見分ける方法を教えることは、日本語教育の重要な課題となっています。
このようなギャップの存在は、国や文化、社会の違いとも深く関わっています。謝罪や感謝などの表現は、日本語と他言語ではどう違うのか。それを明らかにするために、中国語、フランス語やアラビア語などとの対照研究を通じて、日本語の特質をあぶり出す試みを行っています。それがひいては異文化理解を深め、日本語教育の質を高めることにもつながると考えています。
また、マスメディアの批判的談話分析を通して、言葉の裏側にある男女や権力、階級など様々な区別や差別意識を指摘することも研究の守備範囲です。
人が言葉を使う時、その場面、状況、目的、伝える方法などにより、送り手と受け手の間にはさまざまな相互作用が生まれます。そのメカニズムを知る楽しさを、ぜひ皆さんに味わっていただきたいと思います。