ベンガルの世界へようこそ!
ベンガル語とは
ベンガル語はバングラデシュとインドの西ベンガル州で用いられ、バングラデシュでは国語に、インドでは公用語に指定されている重要言語です。その話者数は両地域合わせて2億人をはるかに超え、3億人に迫っています。
ベンガル語はヒンディー語やウルドゥー語と同じように、インド?ヨーロッパ語族インド語派の言語で、南アジアに存在する多くの言語と類縁関係にあります。特にアッサム語とは非常に近い関係にあり、文字などに共通点がたくさん見受けられます。また、ヒンディー語やウルドゥー語とも共通点は多く、これら南アジアの3言語は、相互に学ぶことが容易です。
さらに、ベンガル語にはドラヴィダ系やオーストリック系の語彙も多く含まれており、インド?ヨーロッパ諸語以外の言語との密接な関連も見られます。
ベンガル語は日本人にとって比較的学びやすい言語です。というのも、日本語と同じ語順をとり、日本語の「の」にあたる所有格形や「で」にあたる所格形の使い方が日本語と非常に似ているからです。文字や語彙を覚えるのに多少の苦労は伴いますが、時間が経つにつれ日本語を話す感覚でベンガル語を話すことができるようになります。
ベンガル語を通して学べること、できること
このベンガル語地域の西半分はヒンドゥー文化圏、東半分はイスラム文化圏となっており、そして東側では仏教文化圏と接し、さらに北側では中国文化圏とも近接しているため、ベンガルでは多様で重層的な文化が見られるのが特徴です。
ベンガルと言えば、非ヨーロッパ人初のノーベル賞受賞者タゴールを育んだ大地であり、そこから見られるように、ベンガル語は文学で用いられる言語として確固たる地位を築いてきました。タゴールは、ベンガル文学を新しいステージへ導いたのみならず、ベンガル語そのものにも変化をもたらしました。ベンガル語の語彙を増やし、表現を豊かにし、韻律を再構築し、また率先して口語体の記述を試みたのもタゴールです。タゴールはその知見によって、言語学や哲学などさまざまな分野にも貢献しました。
ベンガルからは、さらに2人のノーベル賞受賞が生まれています。その一人、ムハンマド?ユヌス教授はグラミン銀行を創始し、世界中の貧困削減運動に大きな影響を与えつつありますし、もう一人のアマルティヤ?セン教授も開発経済学を大きく革新し、世界中の開発経済学者や開発援助機関に働く人々に深い影響を与えています。
また、バングラデシュはベンガル語国語化運動を発端にパキスタンから独立した経緯があり、言語に対する意識が高く、国語であるベンガル語をとても大切にしています。自作の詩をSNSに投稿するなど、その熱意と素養には目を見張るものがあります。このような言語に対する意識もベンガル語を学ぶものの興味を惹きつけます。
近年、親日国として知られるバングラデシュは着実に経済発展しつつあり、それに着目した多くの日本企業が進出しているため、ベンガル語やベンガルの社会?文化に精通するスペシャリストの養成が求められています。2012年に東京外国語大学に日本で初めてベンガル語専攻が立ち上げられてから、2016年には初めて卒業生を送り出しましたが、その多くはベンガルに関わる職に就き、将来的には現地で日本とバングラデシュをつなぐ架け橋としての活躍が期待されています。同様に、西ベンガル州も独立の頃まではインドの経済的、文化的中心の一つとして栄えていました。独立後は、主に政治的な理由から経済的停滞を被ってきましたが、人々の知的文化的水準の高さは目を見張るものがあり、今後、大きく成長していく潜在力を秘めているといえます。
ベンガルは、独立以前から日本との文化的、経済的交流が深く親日的な感情も強く、文学?文化研究と経済および外交的な結びつきという両面で日本人にとって非常に魅力的な地域です。他方で、その言語は比較的限定的な地域で用いられてきたため、これまで海外から目を向けられることが少ないきらいがありました。しかし、これからは私たち東京外国語大学ベンガル語専攻がベンガル語から文学や文化、歴史、社会、経済など様々な分野の研究と交流の一つの核となり、ベンガルという社会と大地の理解に貢献していくつもりです。