HIPS修了生インタビュー
3期生 藤岡 祐羽(ふじおか?ゆう)さん

修士論文タイトル:
トランスナショナル公共圏の現出 -国際法における市民の連帯に関する一考察-
The Rise of the Transnational Public Spheres? Civil Solidarity in International Law
Q.1 HIPSに参加したきっかけや理由を、なるべく詳しくお教えください。
私は地元の愛媛大学を卒業後、東京外大大学院に進学しました。大学院進学にあたって東京外大を研究室訪問で訪れた際、のちに指導教員となる松隈潤教授(国際法)からHIPSを紹介されたのがきっかけです。HIPSはその名の通り歴史学を中心としており、実際参加者の多くも歴史学専攻でした。一方、私は国際法専攻で、学問としての歴史学は初学者であったため、最初は「ついていけるかな」という心配がありました。ただ年間数百万円する留学先での学費が免除され、かつ奨学金が出るということで、人生経験としてヨーロッパを見ておきたい、日本で単に研究するより断然面白い世界が待っていると思い、参加を決めました。
Q.2 HIPSで研究した内容を、なるべく詳しくお教えください。
HIPSでは、国際的な規範形成に市民が関わることの重要性やその将来性について研究しました。
私は元々国際学全般を学んできたため、HIPSでも国際法と公共圏を組み合わせた研究ができないかと考えていました。国際法は国内法とは異なり、「法」の名はつくものの、実際は国と国との約束のようなものです。そのため通常は国と国のみが議論し、条約締結まで完結します。しかし冷戦後、この国家のみに認められていた条約形成にNGOや市民団体が関わるようになりました。
例えば核兵器禁止条約などは、NGOを含めた市民側から核兵器禁止の必要性を訴え、それに共感した非核兵器保有国の賛同を経て、国連総会で採択、発効されました。このように、国家の側からではなく市民(団体)の側からの規範形成への影響力や市民運動の世界レベルへの拡大、そして条約締結にまで至った過程や要因について、公共圏という観点から研究しました。

Q.3 HIPSは、自身の研究や将来にどんな影響を与えましたか?
まず、既存の欧州中心的な価値観以外の視点や歴史観に目を向ける重要性を強く感じました。私はこれまで世界を広く俯瞰するような視点で捉えてきたつもりでしたが、例えば欧州的価値観に基づく国際法認識だけではなく、世界各地域にそれぞれの国際法認識があり、また現在の社会が植民地主義など欧州の負の歴史の上に成り立っているという点を、授業内外での意見交換や欧州での生活を通して改めて強く感じました。現在の国際社会において格差や不平等は大きな課題ですが、その遠因の1つに歴史があるという点を、学問と実体験の両軸で捉えることができたことは重要な成果でした。
英語という観点からは、世界中から集まった学生と共に英語で授業を受けるという、さながら英語圏の大学に近い環境に身を置いたこと、その中で嫌でも英語の文献を読み、英語でレポートを書く「特訓」をせざるを得ない環境下で修士号を取得できたというのは、「自分でもここまでいけるんだ」という自信になりました。
Q.4 HIPSは修了に最低2年半かかりますが、これについて実際どうでしたか?
私は修了に2年半かかるという点は特に気にせず、「まあ何とかなるやろ」と考えていましたし、実際何とかなりました(笑)
日本の就活事情を考えると、秋卒業がネックに感じる気持ちもわかります。ただ近年海外大学?大学院を卒業した人向けの採用も増えていますし、論文提出と就職活動のピークが重なるという点は最初から分かっていることなので、前もって準備しておけば乗り切れるのではと思います。何より「世界中の学生と共に学ぶ」というのは唯一無二の経験ですし、大きなアピールにもなるはずです。
また、HIPSに参加すると半年の遅れなんて気にならなくなると思います。日本の学生は大学卒業後そのまま院に進んでHIPSに行きますが、他の学生は「数年働いてからHIPSに」とか「HIPSが2回目の修士課程」なんていう学生もざらにいます。3期生には30歳でHIPSに来た学生もいました。時代も変わりつつある中、半年の遅れはそんなに心配しなくてもよいと思います。

Q.5 HIPSを修了した後の過ごし方や、今後の進路について、差し支えない範囲でお教えください。
HIPS修了後はアルバイトをしながら就職活動をし、外務省専門調査員として在外公館で2年間勤務することになりました。その後は博士課程に進み、将来的には、日本と世界が平和で安定的に発展する社会づくりのために研究したいと考えています。
私の場合、国際学を中心に据えつつ他の学問分野の知見や見方も取り入れながら総合的観点から研究していきたいと考えています。HIPSを通して日本ではまだ主流とは言えない公共圏概念を学び、国際法の知見と組み合わせながら研究を進められましたし、この分野横断的思考こそ、今後の自分の強みにできるとも感じています。進路をどうしようか考えたこともありますが、専門調査員試験に合格したことで研究者への道が開きかけていると思っています。人生様々ですが、HIPSの経験は役に立ってきましたし、これからも役立ってくると思います。

Q.6 HIPSへの参加を考えている学生にひとこと
私は歴史学の人間ではなく、また東京外大出身でもないため、HIPS内でも例外的な存在でした。一次史料と二次史料の違いも最初は理解できず苦労しましたが、それでも独自の研究をしてきました。意外とハードルが高いように思うかもしれませんが、自分のように「人生経験としてのヨーロッパ」という風に捉えるのも一つの手です。躊躇っている場合は、「とりあえず行ってみる」というスタンスでよいのではないでしょうか。どんな形であれ、損をすることはないと思います。
