2018年度 活動日誌
3月 活動日誌
2019年03月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
三月のロンドンレポートは3件のトピックをお届けします。
一件目は、レクチャーシアターで行われた、お琴のコンサートです。デイヴィッド?ヒューズ教授企画のこのイベントは、日本から箏曲者でいらっしゃる二代目米川敏子先生(プログラムに書いてあるヒューズ教授の説明を引用しますと、「箏と三味線の大家の家柄で、母は人間国宝の米川敏子初代」)をご招待して行われました。
プログラムは米川先生の独奏、米川先生のお弟子さんで、三味線奏者の亀川まりさんとの演奏、尺八のクライブ?ベルさんとの演奏、先生の演奏と唄、最後にお琴とヴィオラのウェンハン?ジャングさん共演がありました。ヴィオラとの共演で、米川先生はお琴を古典の演奏とは全く違う弾き方で新しい音を作られていました。このイベントで、琴という楽器の古典音楽維持とコンテンポラリーの中での革新性の両面性を発見できた素晴らしいパフォーマンスでした。
次のレポートは英国日本大使館から認定された日本文化シーズン2019の一つとして行われた、裏祭りについてです。企画?主催は、現地で主に日本人からなるパフォーマンスグループのフランク?チキンズのメンバーの数人が作った裏祭りコミッティーです。
客層は多種多様でいろんな世代の人たちがいました。このイベントは、ローカルの人たちを対象に、日本の大衆文化、ポップカルチャー、民族音楽、東アジアの中の日本、日本文化に影響を受けたイギリス文化、ローカル化した日本文化などをテーマに、出し物を選んであります。
今年で3回目の裏祭りは、300人くらいが定員のヴェニュー、ベスナルグリーン?ワーキングマンズ?クラブで行われました。大勢詰めかけた観客の熱気むんむんの中で裏祭りが始まりました。司会は、過激なお婆さんに扮装した、折り紙アーティストでフランクチキンズのメンバーの倉田としこさんです。
望月あかりさんの演歌パフォーマンスから始まり、一川響さんと数人のお弟子さんの津軽三味線の演奏、舞踏ダンサーのマイさんと即興音楽のミックスパフォーマンス、ひなさん制作のショートフィルムの上映、力強い中国の音楽を披露してくれるのは、ベイベイ?ワングさんと生徒によるパーカッションパフォーマンス、そして最後は、1980年初期からロンドンを拠点に音楽とパフォーマンス活動を続ける、フランク?チキンズで幕を閉じました。
質が高くエンターテインメント性に富んだ文化体験を提供してくれる裏祭りを、地元の人たちも満喫しているようで、イベント中、大喜びでした。
来年はもっと大きい企画があるようで、楽しみです。
第三件目は、春ですので、ロンドンの花見についてお送りします。
イギリスでも桜の木はどこにでも植えられていますし、チェルシーフラワーショーで素晴らしい園芸と庭園技術に対する情熱を見せてくれるイギリス文化ですが、不思議と花見をする習慣は見かけません。
そこで、知り合いの日本人女性が集まり、王立公園のリージェントパークで桜の花見をしました。リタイア―した元実業家、大学に勤める音楽部教授、即興音楽家、美容?ファッション関係コーディネーター、劇場関係コーディネーターとキャリアウーマンが勢ぞろいして、全部手作りの見事な日本食のお弁当をもちより、桜の下で優雅な春のひと時を過ごす事が出来ました。自然と触れ合い、その中で手作りのお弁当を食べ、興味のあることを語り合うという時間を持つ事が、如何に人間的でほっとすることかという事を強く感じました。お花見は、やはり素晴らしい伝統的習慣です。
最後にイギリス的な桜のプレゼンテーションでレポートを終わります。写真はSOASの近所にあるショッピングセンターで見かけた桜の花びらで作ったインド象です。インド文化紹介のイベントが週末に行われるらしく、そのプロモーションのために作られた桜の象さんで、そばにあるプレートには「私に名前を付けてね!」と書いてあります。
2月 活動日誌
2019年02月28日
GJOコーディネーター 田口 和美
二月のロンドンレポートは3件のイベントをご紹介します。イギリスのEU離脱問題が渦巻く中、ホンダ自動車が発表したイギリスからの工場撤退のニュースに大ショックを受けたイギリス国民ですが、イギリスでの日本文化紹介は止まることなしに続いています。
一件目は、ブルネイギャラリーで行われた世界音楽の催しです。イベントの目的は音楽部の楽器購入のための資金集めのチャリティーコンサートでした。会場全席満員の中、7つの出し物が全部違った地域の音楽を披露しました。2時間という決まった枠内ですべての音楽を披露し、大変密度の高いイベントでした。
中央アジアとアイルランドの音楽のフュージョンを披露してくれるフォーク調のグループがまず最初で、その次は印度の弦楽器とタブラーの演奏、続いて東南アジアの弦楽器と歌、中近東とアフリカのジャズフュージョン、日本民謡(沖縄民謡も含む)、シルクロードの音楽と歌と踊り、アフリカのコーラの演奏と、2時間ぎっしり詰まった質の高い世界音楽を聴くことができました。SOASならではの国際色豊かなイベントでした。
二件目は昨年もお届けした、津軽三味線演奏者の一川響さんの生徒さんたちによるコンサートに行ってきました。毎年、日本人の居住地区の一つである北区の教会で開かれているこのイベント、今回で5回目だそうです。
今年もベルリンからベテランの生徒さんたちも大勢駆け付けてくださいました。そして、今年はスコットランド地方のグラスゴーからプロの民謡歌手と踊り手のよしえ?キャンベルさんが特別出演してくださいました。
プロの演歌歌手の望月あかりさんの歯切れのよい司会で、順調にイベントは進行し、最後は生徒さん全員と一川響さんの演奏に加え、よしえ?キャンベルさんが歌を披露して、イベントの幕を閉じました。ロンドンでパワフルな津軽三味線の音色と民謡の歌を聴けて、幸せな夜でした。
三件目は、SOAS仏教学センターと宗教?哲学学部主催のイベントに関してです。日本宗教学センター、仏教学センター主任のルチア?ドルチェ教授企画のこのイベントは、日本から浄土真宗本願寺派青龍山称賛寺17代目住職、たつみあきのぶ氏を迎え、新しいスタイルの布教活動の在り方を体験するといった試みでした。
最初に、現代音楽と仏教の教えを融合させ現代人に広めようと、ご住職がプロデュースされたお経とヒップホップやダンス音楽をミックスさせた新しい仏教音楽を披露して下さいました。その後、ご住職が、熊本県菊池市にある女性だけの修験道者だけからなるお寺で行われた護摩供養に参加された時の様子と、参加に先立っての準備としてのお浄めの業を写真を交えてお話しくださいました。
その後、ミュージシャン?ライター?フィルムメーカーで観世音という映画を製作した一人で、四国巡礼の体験もあるニック?カントウェル氏が、宗教的な観点から、音が視覚と精神にどのように影響するかというトークをされました。
その後は、ルチア?ドルチェ教授、音楽部からはデイヴィッド?ヒューズ教授、たくみご住職、ニック?カントウェル氏による質疑応答で終了しました。新しい宗教のありかたのひとつとして、これからの参考になる画期的なイベントでした。
1月 活動日誌
2019年01月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
新年あけましておめでとうございます。
2019年、年始めロンドンレポートは、「Industry – Academia Partnership: Collaborations between UK Universities and Japanese enterprises」(産業―学術研究機関の提携:英国の大学と日系企業の共同事業)というタイトルで行われた大和基金でのトークを取材しました。
スピーカーは堂島酒醸造所社長の橋本清美さんとケンブリッジ大学経団連日本学博士の Mikael Adolphson博士でした。
まず最初に、橋本清美さんが堂島酒醸造所をご紹介くださいました。昨年2018にケンブリッジ郊外のフォーダムアビーという小さな町に酒蔵を設け、イギリスでのビジネスの展開を始めた堂島酒醸造所は、大阪に基盤を持つ堂島麦酒醸造所を母体とする酒蔵で、ヨーロッパで日本企業が設立した初めての酒蔵です。
堂島酒醸造所では、主に2種のお酒を製造していて、「堂島」と「懸橋(ケンブリッジ)」という銘柄です。どちらも一本1000ポンド(約15万円)という高級酒です。
清水さんは、Sake市場の活性化のためには、良質商品志向の世界中のワインファンに、純粋なSakeの味を知ってもらう必要がありますと説明されたうえで、その生産にかかる原料、環境、技術などを考慮したうえで割り出されたのが現在の価格だそうです。
将来、堂島酒醸造所では、地元やヨーロッパの人たちがSakeを体験できる施設として、日本酒の歴史や製造工程などのレクチャーを開催したり、カフェやレストランを併設するといった案もあるそうです。英国で日本酒の地酒が誕生しました。これからの展開が楽しみです。
堂島酒醸造所の発展に後ろから力を貸しているのが、ケンブリッジ大学です。
二番目のスピーカー、Mikael Adolphson博士のスピーチでは、現在ケンブリッジ大学の日本学が危機に面しているとのお話から始まりました。原因として、ファンディングが減少している現状で、人文、言語学部が援助削減の攻撃の的になり、国からの援助が受けにくくなっている反面、科学、技術、エンジニアと数学には力を入れています。結果として、大学が批判的思考や革新的思考が可能な信頼できる市民の育成のかわりに、職業訓練所となっている状態ですと説明されます。以下はアドルフソン博士による問題と対策の解説です。
企業が新卒に求めるものとしての統計の結果によると、批判的思考?分析的推論, 複雑な問題の分析し解決する能力、効果的口頭伝達力、文書による伝達能力、のこの4つが上位をしめていて、現実社会での能力?技術の応用力はその後の5位です。
日本学に関して考察してみますと、日本学の卒業資格は、その後のキャリアと直接つながっていません。その主な原因は、共同研究の欠如です。第一点として、日本に関係したケンブリッジの研究は、日本側と共同したり、日本国内との接点はありません。第二点として、日本企業がケンブリッジでの研究に携わることは、ある種の挑戦です。この二つの理由で、日本側からの研究と改革がケンブリッジ大学で行われていないという結果になります。
ケンブリッジ大学の日本語学科の学生は、高度の日本語を習得し、3年生になると、一年間日本で勉強します。統計的に見て、学生は学問の習得が早く、リーダーシップ意識を持つと同時に、幅広い知識の持ち主です。現状はというと、80%以上の学生が、卒業後は学位と関係ない仕事についています。日本語学科の学生が、日本関連の仕事に就けないのであれば、日本語を学ぶ必要はないわけで、結果的に日本学の学部が不要になってきます。何が日本関連の仕事に就けない原因の一つかといいますと、日本での就業経験の欠如が挙げられます。
そこで、解決策の一つとして、ケンブリッジ大学はインターンシップ制度を複数の企業とパートナーシップという形で結んでいます。その一つには、三菱商事が挙げられます。
ケンブリッジ大学の日本学学部は、地域研究から、複数の専門分野を研究する方向に移行しました。新しい知識をもつ新しい学者を育てる必要があるからです。その土壌を作るには、日本に関して深い理解を持つ熟練の学者が必要とされます。同時に、日本について建設的に理解できる中心軸が要求されます。しかし、現在のところ、企業あるいは政府はまったくこういった場所を設定する試みをしていません。
次世代の学者とイノベーターを訓練する必要があります。現在、英国では大卒の学生を訓練する経済的モデルがありません。若い学者を育てない限り、英国での日本学の将来は存在しません。グラヂュエットプログラムは外部からの援助が必要です。パートナーシップ関係を結ぶのはコストを考えると困難です。共通の目的、パートナーシップを確実にするもの、支援する価値のあるものなどを探る必要があります。
研究提携に関してですが、ヨーロッパとアメリカでは研究開発が大学機関で行われます。企業とアカデミアの協力が普通に行われます。しかし、日本では、研究開発は企業のなかで行われます。
究極的な解決案として、共同研究、スコラ―シップの援助、イノベーションそして研究活動を促進してくれる機関が必要になります。そこで提案しますのが、日本企業の独創性を導くためのグローバル研究を行える学術機関の設立です。この動きは、日本が環境、社会、そして世界規模での問題を提案し解決に導く素晴らしいチャンスだと思います。それを可能にするのが、ケンブリッジ大学日本学が支援するグローバルリサーチセンターです。
12月 活動日誌
2019年01月05日
GJOコーディネーター 田口 和美
12月のロンドンレポートはロンドンを起点に精力的な活動を行っているアーティスト、河合里佳さんについて、お届けします。
ロンドンの中心街から少し北にある、ロンドンっ子が食事をしたり、お買い物したりするファッショナブルな地域の目抜き通りから少し入ったところにあるギャラリーで、河合里佳さんがキューレーターをつとめ、ご自身の作品と他2人のアーティストの作品を展示なさっていました。
河合さんは武蔵野美術大学造形学部で学んだ後、1987年に渡英。セントマーチンズ?スクール?オブ?アートでアドバンスドライフドローイングを学び、1989-1991年の間はペンタグラムデザインで働く傍ら、芸術活動を継続し、数々の展覧会に作品を出展していらっしゃいます。
1995年に五島記念文化財団の五島記念文化賞美術新人賞を受賞され、2017年には美術新人賞研修帰国記念展覧会の開催のため、横浜?黄金町エリアマネジメントセンタにてアーティストインレジデンスプログラムで滞在制作をされていました。滞在制作で作られた最新作を、成果発表展「Weight of Light」として2018年1月から2月にかけて千代田3331内の nap galleryにて展示なさいました。今回の作品群のテーマに関して、河合さんは次のようにコメントなさっています。
「この展覧会では、地球での生命継続の危機に伴い、宇宙移住/瞑想を提案しています。子供の頃より、自然から感じる目に見えない不思議な存在感や規則性に興味を抱いておりました。近年の作品は、膨大な宇宙に充満する、不可視領域の世界の可視化をテーマにしています。それに伴い、透明な描画材?支持体に光を与えることで、光と影という両極の性質が共存し相互作用する、フォトスキアグラフィアを生み出しました。この言葉はギリシャ語由来の造語で、photo (光) 、skia (影)、grafia (絵)から来ています。透明の素材と鏡面で形状を造り、それに投射することにより形成される光と影の相互作用より、新たな視覚作用から瞑想状態が促されるのではないかという実験的な作業を試みています。」
今回のグループ展では2点だけの出展でしたが、次回はもっと大きな空間で、河合さんの他の作品を思う存分楽しめることを期待しています。
11月 活動日誌
2018年11月30日
GJOコーディネーター 田口 和美
11月のロンドンレポートは、まず東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所(AA研)からSOASに短期訪問中の品川先生大輔先生が、SOAS孔子学院主宰のコンフェレンスで研究発表をなさるという事で、取材に出向いてきました。
コンフェレンスはSOAS新館のポール?ウェブリー館のアルムナイ?レクチャーシアターで行われ、品川先生の発表は午前2部の2番目でした。トークのタイトルは ‘Linguistic diversity and unity in Swahili contact varieties: a shared element not attested in “Swahili”’でした。スワヒリ語に関する研究発表は英語で行われ、スライドを交えた30弱の発表は非常に興味深いトークでした。トークの後の質問も、色んな角度からの質問があり、幅の広い分野からのオーディエンスが参加しているという印象を受けました。
僅か2週間の訪問期間にもかからわず、品川先生は、ミーティング、研究発表、ドイツからの訪問者とのジャーナルに載せる記事の調整など、目まぐるしく活動なさり、実りあるロンドン訪問だったようです。
11月のもう一件は、アジア?アフリカ研究コンソーシアム(CAAS)のメンバーで、東京外国語大学に2016年10月から2017年春まで滞在なさり、講義も担当なさっていたDr. Christopher GerteisのSOASオフィスにお邪魔し、色々とアドバイスを頂いてきました。
Dr. Christopher Gerteisは近代代日本史が専門で、東アジア史入門コースや現代史がステージ1と2に分けてあり、学生が望めば深く追求できる設定のようです。博士号論文に取り組む学生も数人担当なさっています。来年は、再び東京外国語大学を訪問なさる予定という事です。
Dr. Christopher GerteisからSOASのTUFSコオーディネーターへのロンドン報告記に関するアドバイスは、東京外国語大学で言語学を学ぶ学生は、他国の学生がどのような言語を学んでいるか興味があるはずですから、SOASにある色んな言語学のコースに関して紹介して欲しいとのことでした。とても良いアイデアだと思います。
来年のロンドンレポートで、出来るだけ多くの言語学コースを特集できるように努力しますのでご期待ください。
イギリスはこれから、どこもかしこもクリスマスフィーバー一色になります。日に日に寒くなる街中ですが、EU脱退問題はそっちのけで、人々もストリートライトも輝いています。
10月 活動日誌
2018年10月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
10月のロンドンレポートは、“The Art of Gaman” (我慢芸)という、第二次世界大戦中のアメリカに暮らす日本人女性を題材にしたお芝居が、こじんまりとしたシアタースペース、Theatre 503で上演中でしたので、行ってきました。
フリーランスのプロデューサー?舞台監督のヘレン?ミルン製作企画のこのプロダクションは、イギリスのアーツカウンシル、大和日英基金そしてコミュニティーシアタートラストから支援を受けて上演されています。
シアター503は新鋭ライターを世に送り出すことに力を入れていて、ストーリーとして書かれたものが、実際の劇として生まれる発表の場となっています。新人の劇作家を見出し、次世代のリーダーとなるような人材を育てることに力を入れている劇場です。
印度で生まれ、イギリスとロシアで育った劇作家、Dipika Guhaさんは、エールドラマ学院(Yale School of Drama) で芸術マスター課程(Master of Fine Art)を学び、現在はプリンストン大学(Princeton University)のHodder Fellowの保持者です。 “The Art of Gaman” はアメリカン劇作家基金(the American Playwriting Foundation)が設けているリレントレス賞(Relentless Award)にノミネートされた最後の6名の一人です。Dipikaさんは才能豊かで、次々と文化的に影響力のあるお芝居を生み出しています。
ストーリーはtalented、日本人の両親を持つアメリカ生まれの若い日本女性、ともみ(古村朋子さんが見事に演じていました)が日本に教育を受けに帰っている間に戦争がはじまり、アメリカの両親のもとに帰ろうとしているときから始まります。
ともみの夢は女優になることでしたが、彼女が到着したアメリカでは、ともみの両親は捕虜収容所に移されていました。お掃除の仕事をしながら、女優を目指すともみでしたが、居住権の問題もあり、説得されて日本人の知り合いのおじさんの息子と結婚します。
お芝居は、ともみがいかに自分のやりたいことを我慢しながら、アメリカで生き延び、本当の自分を見出していくかという内容です。
説明には、「“The Art of Gaman” (我慢芸)は、敵対視される国に居住しているときに体験する、ここにいるべきでないという違和感と、自分が誰であるのかという文化的アイデンティティーを痛いほど模索しています。過去を忘却することは恥であるけど、思い出すという行為がそれ以上の痛みを伴うという状況で、ともみは苦闘の中に美しさを見出す強さを生み出し、自分の新しい人生を築き、真の自分に忠実でなければなりません。」というのが、このお芝居のメッセージのようです。
今月のもう一件のレポートは、イギリスでも屈指の交響楽団、BBCコンサートオーケストラが、以前SOASミュージックデーで登場してもらった今話題のパーカッショニスト、ベイベイ?ワングさんと共演のため、中国ツアーに出る直前に、BBCスタジオでツアー前の最後のリハーサルを行うということでしたので、取材に行ける幸運に恵まれました。
メイダヴェールの閑静な高級住宅街の一角にあるBBCレコーティングスタジオは、不動産の地域開発の動きに伴い、長年数多くの音楽家たちの録音を手掛けた古巣を離れ、近々ほかの場所へ移転することが決まっています。
写真に写っているのは、BBC交響楽団のホームであり、リハーサルと録音をやるスタジオです。録音をするスタジオだけに、音響は最高でした。中国に発つ前の最後のリハーサルという事で、そのまま荷造りできるように、フライト用の楽器収納ケースが所狭しと置いてあります。
リハーサルはまず、BBC交響楽団のレパートリーから始まりました。リハーサルとはいえ、こんなに近くで一流のプロの音楽家達の生演奏を聴くのは、非常に感動的です。
その後、ベイベイ?ワングさんとの共演がありました。ベイベイ?ワングさんは中国の中央音楽学院とイギリスの王立音楽学院の両方の大学院の修士課程の卒業生で、イギリス、ヨーロッパ、アメリカそして中国で数多くのワークショップを手掛け、世界中のオーケストラと数多く共演しています。
日本関係では、ニュー?ジャパン?フィルハーモニックとの共演や、ベルギーを拠点にした日本伝統太鼓グループ、アラグミ?ダイコともツアーをしています。中国伝統音楽、世界各国の民族音楽、西洋クラシック音楽、ジャズ、ポップとジャンルにこだわらない姿勢で、彼女の音楽活動の幅が広まる一方です。ごく最近は、ロンドンファッションウィークで中国のファッションデザイナーのショーの音楽も担当しています。本当にエネルギッシュな女性です。
BBC交響楽団との共演で披露してくれたのは、 “The Tears of Nature” (自然が流す涙)というタイトルで、中国の地震災害、東北の地震と津波の災害、アメリカの竜巻の3つの自然災害をテーマにした作品を披露してくれました。自然の持つ、美しさと不気味さを素晴らしく良く表現してある演奏でした。ベイベイ?ワングさんが日本で演奏する日も近いかもしれません。そうなることを期待しています。
9月 活動日誌
2018年09月30日
GJOコーディネーター 田口 和美
9月のロンドンレポートは、東アジア学部主任のネイサン?ヒル教授がご親切にも取材に協力して下さいました。ヒル教授は、TUFSの活動に非常に協力的で、過去に行われたTUFS-SOAS交流会に2回とも出席して下さいました。
ネイサン?ヒル教授はSOASに勤務して10年だそうで、最初の3年はヒル教授の専門のチベット語を教えていらっしゃいました。その後3年はポストドクトラルフェローとして3年間研究をし、東アジア言語文化学部の主任になられました。
東アジア言語文化学部は一年前までは、Japan & Koreaと China に分かれていましたが、やはり東アジアを一つにまとめた方が良いという見解から、今はジャパン、コリア、チャイナそしてチベットが一つの学部として統合されました。4つの国を一つのまとまった文化圏としてとらえるためだそうです。ヒル教授が理想とする東アジア言語文化の在り方は、漢文学を基礎として学べる環境を作ることだそうです。
イギリスの大学ではSOASが留学生を外国に送るシステムを作った最初の大学で、当初はやはり画期的な事でした。その後、多数の大学がこのシステムを取り入れ、現在ではそれが当たり前のことのようになっています。ヒル教授は、SOASは留学に関して先駆者だったので、時代の移り変わりに伴い、古い留学制度を変革の時期に来ているそうです。
現在、留学生として外国で学ぶ学生には1年間という長期留学しか選択がありません。ヒル教授の希望としては、長期留学制度に加え、SOASの学生が短期留学できるシステムを確立したいという事です。そうすることによって、学生各々が自分の学ぶ国の文化を実際に肌で体験することができ、専攻分野の学問に対する理解度が増すという利点があるからです。
ネイサン?ヒル教授は、東アジア言語文化学部についてSOASホームページに次のように紹介なさっています。
「近年、東アジア地域の言語を高いレベルで理解できる専門家の需要が非常に高まっています。当大学では、SOAS及び由緒ある姉妹校群で東アジアの言語を集中的に学べる環境を提供しています。
20世紀を通じて中国、日本、韓国の文化は、西洋文化圏の中で急速になじみの深いものになりました。テレビ番組、映画、食文化、ファッション、コンピューターゲーム、漫画やアニメ、KポップやJポップといったありとあらゆる文化現象が、グローバル大衆文化の重要な一部となりました。それと同時に、多くの人が、東アジアに前近代から伝わる、多様性に富み精力的で質の高い伝統に支えられた文学、宗教、芸術、そして哲学に魅了されています。
当大学が誇る専門の教授陣が、学生各自が興味を持つ地域、古典的伝統、又現代における発展も含め、将来、専門家となれる知識を提供します。」
文化の多様性いう観点から言うと、ロンドンはマルチカルチャーの発信地の主要地域の一つといえるでしょう。この開放的な環境で東アジア文化は異色を放ちながらも、空気のように自然に環境に溶け込んでいるといえます。
8月 活動日誌
2018年08月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
八月のロンドンレポートは、SOASのスチューデントユニオンに登録しているソサエティーに関してお届けしようと思います。
クラブの種類は大きくいってスポーツクラブとソサエティーに分類されています。今回は多種多様にわたるソサエティーの中で、日本文化に関係のあるものを特集しようと思います。
武道関係が4つあり、一つ目は愛練熟合気道協会です。このソサエティーは21年前に設立され、SOASに定着したソサエティーです。二つ目は、心身統一合気道です。体内の気を鍛える訓練をし、気を使った呼吸法を学びます。
この二つの合気道のどちらも、調和を大切にし、それを基本にして精神力、体力、気力を訓練し、同時に自己防衛力も身に着けます。合気道は相手と対戦するのではなく、相手といっしょに協力をして訓練を重ねるという所に重点を置きます。挑戦的ではなく、競争意識のない点は、年齢制限や体格に関係なく、訓練を受ける事が出来ます。健康管理、柔軟性、気力、そして体のバランスや反射神経を鍛えるのに最適です。
三つめは日本拳法協会です。日本拳法は知名度はまだ低いのですが、科学的に分析され発案された、現代的戦闘スポーツです。防具を付けてけがをしないようにして訓練をします。四つ目は少林寺拳法協会です。この武道は自己防衛力と自己開発の両方を発達する訓練をします。東洋哲学と瞑想を伴った自己防衛技術を身に着けると同時に、自己鍛錬と同時に社会で人を助け、協力し合う意識を身に着けます。
イギリスでは定着している日本のアニメイメージ、SOASでも反映されていて、SOASアニメソサエティーが存在します。活動内容は、毎週、アニメ?漫画ファンが集い一緒にアニメを鑑賞するという事です。
次は、アニメがさらに専門化した、世界におなじみの宮崎駿監督のアニメ鑑賞を目的とする、スタジオ?ジブリ鑑賞会です。スタジオ?ジブリの作品群のストーリー、美術、コンセプトをメンバーと一緒に定期的に鑑賞することを目的としています。
なんと陰陽居酒屋―喫茶店というソサエティーもあります。お昼は喫茶店、夜は居酒屋に変身するというソサエティーのようです。喫茶店では、抹茶や日本茶:煎茶、ほうじ茶、玄米茶等々で、和菓子も選べるようです。居酒屋では、お酒、日本製ウィスキー、焼酎、酒カクテルなどがあり、スナックや音楽も有るそうです。碁もできれば、映画やライブ音楽の提供、おにぎり作りに挑戦コーナー、カラオケもお好きであれば、というアイデアあるれるソサエティーのようです。陰陽という名前の由来は、メンバーが自分のその日の雰囲気で、自由に活発に動いてもよいし、あるいは受身でリラックスできる選択を持つという意味を含むそうです。ソサエティーの活動内容は柔軟性に富み、メンバーからのアイデアを反映して、流動性のあるソサエティーでありたいそうです。どう発展するのか楽しみです。
定番では、折り紙ソサエティーがあります。イギリスには折り紙文化が定着してかなり長くなると思います。SOASの折り紙ソサエティーも独自性があるようで、想像力、創造性、記憶力、手先を器用に使う技術、忍耐力、幾何学の理解、などを学び、習得することを目的としているそうです。簡単なものから、複雑なものまでをカバーするプロジェクトに取り組んでいるそうです。
次は、ジャパンソサエティーです。SOASジャパンソサエティーでは、定期的な英語―日本語交換練習会や、映画鑑賞、文化的イベントを計画中という事です。
Jポップ?カラオケソサエティーというのもありますが、詳細は載っていません。
SOAS民謡グループも存在します。これはロンドンレポートによく協力して下さるデーヴィッド?ヒューズ教授が管理、運営なさっているソサエティーで、SOAS外のメンバーも入会でき、毎週土曜日に熱心に練習を重ねています。日本文化のイベントや最近では、日本のお芝居の音楽も担当しているようです。非常に活発で、音楽性に優れたグループです。
SOASには独自のラジオ局もあります。
ここに挙げたのは日本関係だけですが、これだけから見てもわかるように、本当に様々なソサエティーが存在しています。学生が自分たちで発案し、立ち上げ、運営していくという仕組みになっています。6人集まればソサエティーが作れるのです。社会人になる前の、人と協力して何かを発展させていく力を作る好い練習の場と言えるでしょう。
7月 活動日誌
2018年07月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
七月のロンドンレポートは、ヴィジターズ特集です。ロンドンの大学は長い夏休みに入り、9月末まで4か月、大学生及びほとんどの教授陣は休暇でそれぞれ大学を離れます。(大学院生は、これから個人の特別課題の執筆にかかります。) しかし大学が閉まるわけではなく、短期間の様々なサマーコースが始まります。先月ご紹介したミュージックサマーコースもその一つです。多くの学生が世界中のいたるところから、夏休みを使って学びに来ます。東京外国語大学の学生も毎年、冬と夏、短期留学でロンドンに訪れます。
東京外国語大学のスタッフも毎年、一名4週間の研修に参加されていて、今年は教務課の菊地朝美(ともみ)さんがいらっしゃいました。
SOASのスタッフトレーニング部門が企画運営している研修は、英語の集中講座を三週間とワークシャドーイングを一週間受けるという内容だそうです。一週目にお会いしたときのお話では、かなりハードなスケジュールで、宿題もたくさん出ているとのことでした。最後にはプレゼンテーションもあるという事で、夏休みどころではないようですが、充実した英語のコースのようです。ワークシャドーイングは色んな部署を回り、体験する一週間のようで、良い体験になりましたとおっしゃっていました。
二人目のヴィジターは3月のレポートでご紹介したビルマ語の研究者で、大学で教えてもいらっしゃる岡野賢二先生です。前回は六か月の滞在でしたが、今度は短期滞在で2か月間SOASで研究なさっています。以前はヤンゴン大学で東京外国語大学のオフィスの立ち上げに携わられたり、現在はビルマ語言語データベースの作成に取り組んだりと、ビルマ語の発展に情熱を燃やしていらっしゃいます。
三人目のヴィジターは荒川慎太郎先生です。東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所で西夏語研究を研究なさっている荒川先生は以前、SOASにヴィジティングスカラーとしてお見えになり、その時はTUFS―SOAS交流会に協力して下さいました。今回は1週間という短い滞在のようです。岡野先生と親しいようで、ロンドンでの再会を祝う昼食会に私も参加させてもらい、楽しい時間を過ごしました。
七月は卒業式の季節でもありました。近年、新しくSOAS独自のガウンになり、グレーと黄色のマントに身を包んだ学生達が嬉しそうに歩いています。
6月 活動日誌
2018年06月30日
GJOコーディネーター 田口 和美
一年の最後の締めくくりの試験を終え、学内は又、自由で活気のある雰囲気が戻ってきました。今年は真夏の様な強い日差しが続くロンドンですが、湿気の多い日本の夏と違い、日陰に入ると暑さがしのげ、さらさら感のあるイギリスの夏です。今回はロンドンでの日本の少数民族の文化(韓国、中国そして沖縄)特集です。
試験が終わった週の土曜日には、コリアンソサエティーの各種の楽器や歌を学ぶ音楽クラブによるイベントが行われました。昨年も取り上げましたので、もうご存知の読者もいらっしゃると思います。筆者も今年はコリアンドラムソサエティーのメンバーとして参加し、楽しい夜のひと時を過ごしました。
コリアンソサエティーはかなり活発で、タエグン(フルート)、伽耶グン(琴)、パンソリ(歌とストーリーテリング)、古典舞踊、サムルノリ(コリアンドラアンサンブル)が存在し、それぞれ、初級者用と中―上級用のクラスが設けられています。学生全員が協力し合い、プロ意識のある素晴らしいイベントでした。
6月のニ週目の水曜日はSOASミュージックデイでした。一日中SOASの校内でいろんな国の音楽が演奏されます。学年のおわりを告げると同時に夏休みの開始とSOAS音楽部サマーコースの始まりを告げる行事といえます。これから2週間、SOASでは一般の人も参加できる、ミュージックサマーコースが毎年企画されています。
残念ながらこの日は勤務日でしたので、全部を取材できませんでしたが、階段の踊り場で見かけた演奏を報告したいと思います。その一つは中国の音楽です。SOAS中国民謡アンサンブルの演奏でした。率いるのは、SOAS音楽部の博士号を持つ、タン教授です。琵琶、胡弓、三線(沖縄の三線の元祖)、古筝、打楽器、笛の楽団の演奏のほかに、京劇の音楽を思わせるような楽器の演奏、そしてその後は、SOASミュージックサマースクールで教えている王立音大出身の王ベイベイさん率いる力強い大太鼓の演奏が繰り広げられました。
帰りしなに見たのは、多分キューバ系のラテン音楽で、ビッグバンドとシンガーがお祭りの雰囲気を盛り上げていました。他にもたくさんの音楽が一日中演奏されたと思います。まるで、真夏の夜の夢の中の出来事のようです。
三つ目のレポートは、昨年もお届けした、沖縄慰霊祭にちなんだ沖縄デーです。今年は十年目の節目という事で、より一層盛りだくさんなプログラムでした。沖縄古典音楽のかじゃで風の演奏と舞踊でスタートを切り、奄美大島の民謡、数々の沖縄民謡、堀内加奈子さんによる沖縄音楽とレゲーをミックスしたような音楽、一川響さんによる津軽三味線、宮古島の民謡、沖縄独自の茶道のぶくぶく茶、そして前半と後半のエイサーと息をつく暇もないくらいに、沖縄文化を披露して下さいました。もちろん、ヒューズ教授も太鼓、三線、歌、三板と大忙しでした。
それから地元の空手グループのデモンストレーションも毎年参加しています。ちびっ子たちの技が決まっています。この行事を毎年企画しているロンドン三線会の皆さん、ボランティアで催しの進行を支えている方たち、本当に楽しい時間をありがとうございます。ロンドンのビジネス中心街で、目を閉じ三線の音を聞いていると、まるで海がすぐそばにあるような錯覚を覚えました。又、来年が楽しみです。
5月 活動日誌
2018年05月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
5月から6月初めにかけてはイギリスの大学?大学院は学年末の試験シーズンで、学内は緊張感が漂っています。一つの試験で3時間の所要時間を使い、普通4つの質問を選択し(言語学部は別)、それに対する回答を文章形式で書かなければならないので、精神的にも集中力を要求されるのでが、体力的にもずっと筆記しなければならないので、本当に大変です。ストレスがたまると、頭脳の働きにもよくありませんから、大学側も学生支援課が催眠セラピー、ヨガやリラクセーションなどのクラスを学生に提供しています。
イギリスは学年末ですが、日本は新学年が始まってやっと学生も講義になじんできた時期ではないでしょうか?今年の春より東京外国語大学に赴任なさったフィリップ?シートン教授(以下シートン先生)がSOASにお見えになると聞きましたので、SOAS教授陣とのミーティングでお忙しい中、少しの時間を頂き、お話を伺ってきました。
シートン先生は日本滞在歴20年で、東京外国語大学にいらっしゃる前は、北海道大学で14年教鞭をとっていらっしゃいました。国際日本学研究院に所属なさり、専門はメディア?文化?観光学で、特に戦争記憶に関して研究をなさっています。
今回のSOAS訪問の目的をお聞きしたところ、SOAS-TUFSの間でダブルディグリーの可能性を探るためという事で、今回はその初回だという事で、今はどういう風に進展するかは何とも言えないという事でした。
現在、東京外国語大学の学生は冬?夏の短期留学と一年の長期留学という形態でSOASに留学します。これからの進展を期待したいと思います。
4月 活動日誌
2018年05月15日
GJOコーディネーター 田口 和美
今月のレポートは3月の第2部でご紹介したプレイリーディングの基となる、日本語の原本の翻訳に関係するSOASにある翻訳研究センターと翻訳学というアカデミックコースをご紹介しようと思います。
SOASには言語?文化?言語学学部の一部として翻訳学を研究するコースが設けられています。翻訳学のコースは又、翻訳学研究センターの活動の一部に含まれています。
翻訳学研究所主任でいらっしゃる、佐藤=ロスベアグ ナナ教授(以下、佐藤先生)に、翻訳学のコースと内容に関してお話を伺ってきました。
佐藤先生はSOASで4年、その前にはイーストアングリア大学(ノーベル文学賞を受賞した石黒一雄氏が大学院で創作文学を学んだ大学)で3年半翻訳学を教えるという経歴をお持ちです。
欧州で翻訳学が提唱されたのは1970年代で、90年代に大きく飛躍したということです。SOASの翻訳学研究所は2008年に非ヨーロッパ語の翻訳研究を広めるという目的で設立され、現在MAコースとPHDコースの2種類があります。
MAコースの必須科目は翻訳理論、翻訳学と方法論、そして修士論文として翻訳プロジェクト、または翻訳研究という内容です。
佐藤先生の説明では、翻訳と聞くと、原文と翻訳が中心と思いがちですが、翻訳学は、実践翻訳だけではなく、学術的な意味で、翻訳者が翻訳を行う際、頭の中で何が起こっているかという一定のプロセスがあり、理論、方法を学ぶという事は、そのプロセス(何が起こっているか)という点を社会文化的観点を含めて認識するという事だそうです。
翻訳する際、言葉やスタイルの選択というものが出てきますが、その選択技には多種多様な文化社会的背景に関する理解が要求されるという事です。
現在、翻訳学を学んでいる学生は24名で、コースは自由選択で、例えば実践翻訳であれば、日本語、韓国語、中国語、アラビア語、スワヒリ語、トルコ語、ペルシャ語という7言語の選択肢があります。学生のタイプは、ネイティブスピーカーだけではなく、例えば大学で日本語を勉強した後、大学院で翻訳学を専攻するというケースもあるそうです。院生は英文学や英語を学んだ人、文学関係で仕事をしていた人、社会人として働いていたが仕事の専門分野の翻訳家になりたいという人、といろいろだそうです。
言語をできる人が、より飛躍できる場所を作るというのが、翻訳学の一つの目的のようです。学位を取得した後の専門の選択として、ビジネス翻訳、博士号としての翻訳学の研究、教員あるいは教育に携わる仕事、文学関係での仕事などがあるそうです。
翻訳家としての分野ですが、文学、ビジネス、映画、ジャーナリズムなどがあげられます。
佐藤先生の今後の翻訳学センターの発展計画として、それぞれの地域で培われてきた実践と密着した上での翻訳学の理解を深め、学問的に翻訳学を発展させ研究所を大きくしたいという事と、アジアとアフリカを翻訳学でつなげたいという事でした。