2022年度 活動日誌

3月 活動日誌

2023年3月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

3月のロンドンレポートは、ズームを使ってSOAS-JRCとDaiwa基金の協賛で行われた藤木秀朗博士のオックスフォード大学出版社から出た新しい研究書、Making Audiences: A social History of Japanese Cinema and Mediaの紹介です。

筆者は都合により最初の25分だけしか参加できませんでしたが、話の内容はオックスフォード出版のウェブサイトが紹介している本の概要で簡潔に説明してありますので、ここではその英文をご紹介し、筆者が翻訳を加えます。

概要

この研究書は100年に渡る日本のメディアと社会的主体の関係を、映画観客と1910年代から現在までの異なる期間に使われている5つの重要な言説的用語:民衆、国民、東亜民族(東アジアの人種)、大衆、市民、がどの様につながっているかを分析しその答えを追求しています。又、日本のメディアと社会的主体の関係は、資本主義や全面戦争、新自由主義やリスク社会に至るまで、多様な政治的、経済的な問題と結びついて影響を受けた時代を通して、日本の社会的主題の歴史が直線的ではなく多層的に展開された事を示す点と重なり合っています。

この著書は、5つの用語の持つそれぞれのコンテクストが語彙的に定義され、固定され、安定した意味のセットとして展開されているとは限らないということ、その反対に、多様な立場で一定の不一致と矛盾を伴い、それらの異なる解釈の価値は歴史的背景によって変化するということを提示しています。自己を定義するために使用される事もあれば、与えられた他者を定義するために使用される事もあり、又、談話を通じて表明される事もあるという様に、これらの用語は物理的な身体によって制定されてきました。この著書は、メディアと社会的主体におけるより大きな関係の一部として、日本の映画観客の動的で多層的な歴史を実証的かつ分析的に解明し、社会史によって形成され、同時に形成している映画観客を研究しています。この研究により、20世記初頭から21世記初頭までのグローバルなコンテクストにおける日本社会と文化の歴史に新しい視点をもたらしています。

Reference: https://academic.oup.com/book/41545

Professor Hideaki Fujiki
Dr. Fabio Gygi, chair of Japan Research Center
Making Audiences: A social History of Japanese Cinema and Media

2月 活動日誌

2023年2月28日
GJOコーディネーター 田口 和美

2月のロンドンレポートは、SOASでJCRとCJAL (Dr. Meri Arichi and Dr. Kiyoko Mitsuyama-Wdowiak)の協賛で行われた観世流マスターによる能の講義とワークショップに関してです。

SOASの東アジアの言語と文化学部の主任で日本学を教えていらっしゃるDr. Alan Cummingsの紹介で講義がスタートしました。

能楽師の分林道治先生とご家族は、イギリスでの能の普及活動の一環として、能をイギリスに住む人たちに理解してもらおうと、日本は京都からロンドンに短期間のハードスケジュールでいらっしゃいました。

分林先生の英語での自己紹介の後、スライドを使った英語での解説はお嬢様で白拍子を舞われる分林かなこさんが担当されました。

講義の内容は、1)能とは何か? 2)世阿弥と彼の残した言葉 3)能と道具 4)能への新しい取り組み 5)伝統と伝承 という流れでした。

1)能とは何か?

伝統芸能の一つで舞台芸術の能は、そのために設計された能舞台で役者が舞い、囃子が音楽とコーラスを担当します。役者の割り当ては、仕手、ワキ、ツレ、そして囃子(太鼓、大鼓、小鼓、笛、謡)となります。能と狂言の関係についても学びました。日本三代伝統芸能である能、歌舞伎、文楽の歴史的位置も明確にして下さいました。能のパトロンとなり繁栄させた足利三代将軍、足利義満の紹介をしてくださり、その後、能を贔屓とした武将、織田信長、豊臣秀吉、そして能を式楽として認めた徳川将軍が挙げられました。

能が歴史的に体験した二つの危機は、明治維新と第一次、第二次世界大戦でした。

能の流派には5つあり、觀世、宝生、喜多、金剛、金春があります。

2)世阿弥の残した言葉

室町初期に観世流を父である観阿弥から受け継ぎ、能役者、能作者で能楽を大成した世阿弥が紹介されました。

3)能と小道具

分林先生の説明では、能の理解にいちばん必要なのは、想像力だそうで、これが役者と観客を一つにする重大な要素だということです。

分林先生の実演で、立つ姿勢、手を使った悲しみの表現方法、能面が人の顔より一回り小さい理由として役者が誰かわかるため、能面をつけたときの顔の角度での感情表現の違い、そのための構えの姿勢の重要さ、そして、小道具としての能装束、扇の様々な用途(杯、盾、刀など)を説明して下さいました。

4)新しい取り組み

能への新しい取り組みとして、他の流派との共演、西洋の戯曲やアニメの題材への挑戦、他にも、新作能やファッションデザイナーのコシノジュンコさんとのコラボレーションが挙げられました。

能レッスンは、一般の方に子供から大人(老人も含む)に開放されていて、企業のリーダーの間でも能の嗜みは重要な文化活動として受け入れられています。コロナで日常生活が制限されていた時期は、オンラインのズームで能のレッスンを行われたそうです。

5)伝統と伝承

伝統がどういう風に受け継がれていくかを、祇園祭を例にとり、分林先生が子供さんたちと祇園祭の用意をする写真、分林先生のお父様とお爺様が祇園祭の用意をする写真、そして能装束を虫干しする写真などを見せて説明して下さいました。

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講義の後は質疑応答の時間で、Dr. Alan Cummingsがモデレーターとして通訳をして下さいました。色んな質問がありましたが、どの質問にも丁寧に答えてくださり、通訳も見事でした。

その後は、ワークショップに写り、聴衆が舞に挑戦の時間です。題目は「老松」で、参加した人達は一生懸命、扇を使ってすり足で舞を披露してくれました。

終わりに、参加者全員で「老松」の謡を練習して、イヴェントの幕が閉じました。

全体で1時間半くらいでしたが、内容の濃い能の講義とワークショップでした。

Dr. Allan Cummings introduces Noh actor, Wakebayashi Harumichi sensei
Wakebayashi sensei introduces himself in English.
Wakebayashi sensei on stage when he was a boy
Wakebayashi sensei’s daughter, Kanako-san performs Shirabyoshi
Noh stage, actors and musicians
The expression of sadness using hand gestures
The Noh mask is a little smaller than a human face so the actor can be identified
The expression of the Noh mask can be changed by moving it vertically
Fan used as a sake glass
Fan used as a sword
Collaboration with fashion designer, Koshino Junko
Workshop
The play “Oimatsu” we learnt in the workshop

1月 活動日誌

2023年1月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

皆様、あけましておめでとうございます!本年もどうぞよろしくお願い致します。

1月のロンドンレポートは、イギリスの各労働組合のストライキに関してお届けします。

昨年から続いている物価高騰や光熱費の莫大な値上がりを受け、生活費の危機に対応する手段としての賃上げ要求のデモが各労働組合により全国的に続いていましたが、2月1日いよいよ本格的なストに入りました。

イギリスのメディアによると、過去10年で最大規模のストということで、学校教員や公共交通機関職員、入国管理局職員や警備員による同時ストとなり、50万人が参加し、多くの学校で授業中止となるなど、市民の生活に影響を及ぼし、混乱が生じました。

2万3000校以上の学校が閉鎖を余儀なくされ、通勤客の交通手段も大きな打撃を受けました。イングランドとウェールズ地方では中等教育までの教員10万人以上が参加したと国営放送は報道しています。

大学の職員、公務員、列車やバスの運転手も各自の労働組合が企画したストに参加しました。看護師や救急隊員もこれに続きストを行う予定です。

これを受け、政府は新たなスト規制法を導入予定ですが、労働組合から反発を受け、事態は悪化を辿る一方の様です。

まずは物価の高騰を抑え、光熱費値下げの対策を検討すると言うことでしょう。政府として、国民の生活の安定を最優先するのが、1番の得策ではないかと思います。

12月 活動日誌

2022年12月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

12月のロンドンレポートは、年末の雪に包まれたS O A S近辺の様子と年の暮れから新年に変わるときのテムズ河花火大会の様子をお届けします。

2022年はかなり多くの予期しない出来事が起こった年でした。2月のロシアによるウクライナへの侵略戦争、光熱費の前代未聞の値上がり、物価の上昇、大洪水、ロンドンで40度を上回る猛暑、エリザベス女王の永逝、一年内に3人のイギリス首相の入れ替わり、カタール王国でのワールドカップ、今となってはあっという間の一年、という感じでした。

12月のロンドンは初雪を迎え、一時冷え込みましたが、年末に向けては比較的暖かい師走を迎えました。

写真は、S O A S近辺の私が平和広場と呼んでいるタヴィストックスクエアー、S O A Sの入り口のラッセルスクエアーのクリスマス前の雪景色、我がアパートから見た、テムズ川沿いの年末年始に行われる花火大会です。

皆様の2023年が、安全で平和な生活となります様、お祈りしています。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

Tavistock Square. The Sakura tree on the right was planted in memory of the victims of the Atomic Bomb in Japan. At the end of the path, a statue of Gandhi sitting and meditating can be seen.
Japanese maple trees covered in snow, on the right there is a large stone commemorating conscientious objectors.
Three Christmas trees in Russell Square
Snow and Xmas lighting at Russell Square
Fireworks at the Thames as seen from my apartment. We can see Senate House, the University of London HQ, half of which is occupied by SOAS on the right-hand side of the fireworks.

11月 活動日誌

2022年11月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

11月のロンドンレポートは、私もメンバーに入っている裏祭りコレクティブが企画、主宰する裏祭り2022年に関してお届けします。

2020年に日本大使館が主催する日本祭りの一部で裏祭りを映像でお届けしましたが、最後のライブ裏祭り2019年2月から3年9ヶ月ぶりに、やっと裏祭り2022年をライブで観客の皆様にお届けできました。

笹川基金の助成金をはじめ、タザキフーズ、ヤクルトU K、クリアスプリングから支援を受けたことに、コレクティブ一同、非常に元気付けられました。

11月ではありましたが、比較的暖かく、天気も晴れと、これにない裏祭り日よりでした。

筆者の当日の担当は、第二フィルムクルーとフランクチキンズのメンバーとしてのステージの二役でした。後にあるイメージはフィルムの映像から撮ったものです。

出し物も豊富で、チンドン屋が裏祭りの始まりを歓迎してくれ、ゆーこ?つばめさんによる沖縄音楽、響?一川と津軽三味線上級生による津軽三味線、座敷童による和太鼓とフルート、カムラ?オブスキュアによるインプロミュージック、あかり?望月&バンドによる歌謡曲、ベイベイ?ワングとフレンドによる中国パーカッション、マイとフィアー?オブ?フラフによる舞踏と実験音楽、朋子?古村の弁師とクライブ?ベルの音響による無声映画上演、人間記録のアンビエント、そしてフランク?チキンズによる80年?90年代オリジナル曲の披露という内容でした。

反応としては、色んな人がバラエティーに富む内容で、非常に楽しかったという意見が多かったのは、本当に嬉しいフィードバックで、これからの運営の参考になります。

裏祭りとして文化紹介の場を提供することで、ロンドンの地域社会との草の根交流の機会を作り、楽しい時間を観客と一緒に共有できました。裏祭りは多種多様な文化的背景を持つ人たちが集える空間です。裏祭りを定期的に運営する事は、東アジアの文化とロンドンのローカルコミュニティーが触れ合い理解を深める場として、非常に重要な意義があると、深く確信したイベントでした。

Chindon-ya welcoming the guests!
And the one and only great Japanese Granny in London!
Yoko Tsubame and her band playing Okinawan music!
Hibiki Ichikawa and his advanced students, Tsugaru-shamisen group!
Zashiki Warashi!
Kamura Obscure playing improvisational music and singing!
Akari Mochizuki and the Mochi band playing Japanese popular songs!
Beibei Wang and Mike on Chinese drums!
Mai, the butoh dancer and her experimental musicians, Fear of Fluffing!
Tomoko Komura performing Benshi for a silent movie. Music and sound provided by Clive Bell!
A record of living being with a special guest, Clive Bell!
Frank Chickens performing Pikadon with Hibiki Ichikawa (Tsugaru-shamisen player)

9月 活動日誌

2022年9月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

9月のロンドンレポートは、エリザベス女王時代の終わりを迎えたロンドンの様子と一年間の海外留学として秋からS O A Sで学ぶためにこの9月に渡英し、現在は英語コースをアカデミックスタディーの準備として学んでいる野原奈々子さんとの出逢いに関してです。

今年は、女王陛下在位70周年を祝う記念行事が行われました。国民の誰一人として女王陛下が9月に急に亡くなられるとは予測しなかったと思います。

イギリス国民は皇室ファンであろうとなかろうと、女王陛下がお亡くなりになるという急なニュースに驚きました。

女王陛下の死をロンドンがどの様に受け止めているか、その様子を写真でお届けします。

BT Tower, a London landmark, shows a tribute to the late Queen Elizabeth

People gathered in front of Buckingham Palace

Flowers for the Queen displayed at the entrance gate of Buckingham Palace

Fortnum & Maison showed a tribute to the Queen and closed their window display during the mourning period

The Queen’s image displayed all over London

レポートの話題2は、1年間の海外留学でS O A Sに学ぶためにこの9月に渡英し、現在、英会話コースに参加中の野原奈々子さんとお会いした事に関してです。

野原さんは現在ロンドン大学が運営する学生寮の一つ、インターナショナルハウスに滞在中です。野原さん曰く、寮では多くのイベントやアクティビティが企画されていて、そういった催しは学生同士の出会いの場としてお互いを知り合うのに設けられているという事です。

私と野原さんは運河の近くまで散歩をし、運河の前で話をしました。野原さんはロンドンに滞在している事にとても興味津々で、これから学問だけでなくロンドンが提供してくれる色んな文化も学びたい、と意気揚々としていました。

Nanako Nohara-san at the canal near Kings Cross

8月 活動日誌

2022年8月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

8月のロンドンレポートは、ロンドンの芸術文化センターのバービカンで上演された1960年代日本特撮映画のクラシック、「モスラ」を見に行った感想を書こうと思います。

バービカンでは良く日本映画の特集も組まれるのですが、今回はバービカンの3階にある広場で夜の8時から屋外上映という特別企画でした。

映画を見る会場となる広場の隣は、トロピカルルームが設置されているところです。熱帯植物が沢山ディスプレイしてあるので、緑に囲まれてリラックスすることもできる素晴らしい環境です。筆者は早くも「モスラ」のジャングルの世界に入っています。

バービカンセンターの上にはアパートがあり、多くの住人が住んでいますので、邪魔しない様に、観客は音声をヘッドホーンで聴くというシステムです。観客の前には巨大なインフレータブルスクリーンが浮かんでいます。

大空の下の屋外で「モスラ」を大画面で見れるということで、非常にワクワクと興奮しましたが、結果は裏切られる事はありませんでした。特撮の素晴らしさや、ザ?ピーナッツの可愛い姿や素晴らしい歌声とハーモニーに魅了されて2時間余りあっという間に過ぎ去りました。

大勢集まった観客も楽しんでいた様で、最後にはみんな拍手で目出度めでたしで夏の夜の夢の様な特別な時間を名残惜しみました。やはりイギリス人はロマンチックで夢を与える様な事を計画するのが得意な人たちだとつくづく感じたひと時でした。

The location on the third floor of the Barbican where the film was shown on an inflatable screen

7月 活動日誌

2022年7月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

7月のロンドンレポートは、個人的に経験したコーヴィッドにかかった経験とイギリス中部?南部地方を襲った40度近い猛暑に関してお届けします。

先月末に能のイベントが終わり、その後もとても元気に過ごしていたのですが、王立オペラ座に蝶々夫人を観劇に行った数日後に、体の怠さが普通で無かったので、自分でコーヴィッドのテストをした所、陽性反応が出ました。

イギリスは規則として、陽性反応が出たら5日間は自己隔離をすることになっています。個人的な症状としては、肩の下あたりに焼ける様な熱さを感じたのを覚えています。それからは、熱、せき、体のだるさがあり、数日は床から起き上がれませんでした。

その後、徐々に回復したのですが、良くなったかなと思い、安心すると、又、症状の一部がぶり返すという様な状態が2週間くらい続きました。5日間の自己隔離が過ぎた後も陽性反応は変わらず、結局陰性に変わるまでには12日くらいかかりました。

今は元気になっていますが、コーヴィッドは消滅したわけではなく、常に用心が必要だという事実を身を持って学びました。

コーヴィッドから回復して、やれやれと思っている間もなく、イギリスは歴史上初の最高気温、40度以上の気温を地域的に記録しました。

イギリスの夏は湿度が低いので、エアコンがなくても快適に過ごせるのが通常なのですが、4日間続いた40度近くの気温はいくら湿度が低いといっても、外に出て日向に行くと、もう目が眩みそうです。必要のない限り、外出は避ける様に、そして水分を十分にとる事、などのアドバイスが政府、地方政府から出ていました。

今年は移動に制限がないので、国内、海外にホリデーに行く人達が多い季節です。ロンドンも例にもれずこの夏は多くの観光客で溢れています。

写真はカムデン地区の近くの運河で噴水を楽しむ人たちや、運河沿いで上映されている無料映画サービスに集まった人たちです。

6月 活動日誌

2022年6月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

6月のロンドンレポートは、24?25日の二日間キングスプレイスという劇場で行われた能イベントに関してです。

国際能プロジェクトの柳沢晶子さんがプロデュースするこのイベントはNoh Reimaginedという企画で、テーマがSpirits of Flowersというタイトルでした。

初日は宝生流シテ役佐野登先生のイントロダクトリートークに始まり、「半能―藤」の演目でした。

2日目は終日のイベントで、能の動きのワークショップから始まり、手話による「隅田川」の現代劇のプロダクション、ガーストル博士による能の鑑賞の仕方のトーク、コンテンポラリーダンサー二人Thick & Tightによる能?狂言に影響を受けたダンスパフォーマンス、そして最後に「黒塚」も含めた能とコンテンポラリーダンスと音楽の合作の披露がありました。

筆者の私は、佐野登先生のトークをデーヴィッド?ヒューズ先生の代わりにお手伝いしました。最初は緊張しましたが、後半は佐野先生の思いを観客の皆さんにお伝えしたいという一心で、なんとか自分のリズムを取り戻しました。

トークの最後は、謡のミニワークショップを観客と一緒にして下さいました。皆さんが佐野先生の指導で、羽衣の一節を一生懸命歌って、めでたしめでたしでトークが終わり、筆者は胸を撫で下ろしました。

演劇の歴史的背景もあり、観劇が大好きなイギリス人は沢山います。能のファンも沢山いるようで、初日の古典能は早くからチケットは売り切れ状態でした。

藤の演目が終わった後も、観客の興奮は静まるところを知らず、番外のアンコールで答えて下さいました。現実から離れた異空間に連れて行ってもらったような感覚で、パフォーマンスの後は生きるエネルギーをもらったようでした。

今回、佐野先生のトークのお手伝いをした事で、いろいろ学びましたが、その一つが、「目前心後」という世阿弥の言葉です。

佐野先生の説明では、目前、目の前、つまり自分の目の範囲に入る所は自分で確認できます。心後、自分の後ろ、つまり自分の目の範囲に入らない所は、心で確認するという意味という事でした。さらに心で確認するということは、自分の後ろがどう見えるか気にしていれば、それで充分、そこに意識があるかどうかの違いなのだと思います。

それから、能はエンターテインメントではなく、その根底に流れているのは「天下太平」「国土安穏」「五穀豊穣」「子孫繁栄」という祈りや願いで、これが能が世に発信したい最大テーマということです。

2日目の佐野先生のワークショップも見学する機会がありましたが、これもチケット完売でした。いろんな年齢層の男女が参加して、一生懸命、佐野先生の指導に従い、能の動きを学んでいました。

佐野先生の教え方も非常に素晴らしく、構え、すり足、足の運び方、泣く感情表現、綺麗な私―悲しい私―何か違う私が亡霊を見るー亡霊を打ち落としに行く、という一連の動きまで教えて下さり、生徒の皆さんも能の動きを短時間に体験できて、とても嬉しそうでした。写真を見てくださると、それが伝わっていると思います。

筆者にとっても非常に貴重な体験をした2日間でした。

本学のS O A S留学生の今村暸太さんも、留学最後の時間を能イベントのボランティアとして日本文化の紹介の影の力となり、奉仕活動に一生懸命でした。


Noh Event organiser, Ms. Akiko Yanagisawa


A moment during Sano-sensei’s talk


Noh Performance, Wisteria


Noh workshop


Noh workshop


In the Mirror room


TUFS’s year abroad student, Ryota Imamura san who volunteered for the Noh event before his return to Japan
(Photo: by the writer)


Shite actor, Sano Noboru sensei & my good self
(Photo: Kimono Costumer, Mamiko Sato of Kimono-de-Go)


Noh Performance, Wisteria


Encore


Noh workshop


Professor Gerstle’s talk on Noh


Finale of the 2nd day performance

*All the photos except two were taken by the photographer, Mayumi Hirata with the courtesy of the International Noh Project.

5月 活動日誌

2022年5月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

5月のロンドンレポートは、西と東を繋ぐ交通網として長い延期の末、晴れて開通となった新電車路線エリザベスラインです。

S O A Sに一番近い最寄りの地下鉄の駅はトッテンナムコートロードです。現在はヒースローまでの直通はまだ走っていませんが、パディントンで同じラインに乗り継いで、合計42分という速さです。非常に便利なラインが登場しました。今年はエリザベス女王戴冠70周年を迎えるイギリスにとって、記念に残る年であり、路線となりそうです。

筆者も早速試してみようと思い、トッテンナムコートロードから東に新興経済地域のドックランドの方へ足を向けました。

エリザベスラインのプラットフォームへは、かなり深く地下へ降りて行きます。構内は広々として、どちらかというと空港行きのシャトルの駅のような雰囲気です。古いロンドンの地下鉄という固定観念を覆す近未来的で清潔なラインです。

東はロンドンオリンピックでかなり開発が行われた地域なのですが、その近くにある大規模展示会場、エクセルのある駅、カスタムハウスまで行ってみました。乗車時間は17分と信じられないくらいの速さで中心街から東の昔の埠頭地域に到着します。通常であれば、電車の路線を乗り継いで、1時間プラスはかかるのが普通でした。

思いつきで出かけましたので、どんな催しが行われているか知りませんでしたが、何とコスプレ愛好家や漫画マニアの集まりだったようで、いろんなキャラクターに着飾り、見事にメークし、ウィッグを被り、キャラクターになり切った人達(ほとんどが若者でした)が、ここ数年のコーヴィッドに対する危機感が吹っ飛ぶくらい平和に楽しそうに外で集合していました。

4月 活動日誌

2022年4月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

4月のロンドンレポートは、昨年の10月より東京外語大学から1年間派遣留学でS O A Sに留学中の今村暸太さんに関してです。大学のすぐそばのラッセルスクエアで待ち合わせました。

今村さんにSOAS留学中に経験したことや専攻したコースに関してお話を聞きました。下記は今村さんのコメントです。

SOASでの勉強はとても実りの多い一年でした。

SOASの勉強の仕方は、自分に任されているので、自立して自発的に勉強ができたと思います。自分の好きなところを掘り下げて行くことができました。

専攻は国際関係と開発学を中心にコースを取っていました。個人的には特に移民をテーマとして勉強をしたいと思いました。学部を超え、移民と文化人類学とかダイアスポラと開発学というふうに組み合わせて勉強できるところが非常に役に立ちました。

イギリスでは移民問題や人種差別問題も存在していますが、それに取り組み、理解しようという態度があると思います。日本では人種差別というテーマ自体が論点の対象として上がらないところが残念です。

SOASでは、白人の人たちがマイノリティーで、本当に色んな人種の人たちの集まりという印象を受けます。そういう意味では、SOASの環境はイギリスの大学の中でも貴重な存在だと思います。

いろんな文化を学べる体制があるというのは凄いですね。文化の違いに興味を持ちそれを学ぼうとしている人が大勢いるというのを気づかせてくれました。

学生は差別に敏感で、そういう現状を変えていこうという気持ちが強いと感じました。日本よりは声を出せる場所、そして話し合える場所があると思います。それから日本と比べて人と人の距離感が近いと思います。

いい意味でSOASは批判的に物事を捉え、先進国の押し付けにならない様にするという様な考え方があるということを気づかせてくれました。

先進国と発展途上国を切り離すのではなく、一緒に取り組んでいこうという姿勢で、押し付けるのではなく、理解し合うという方向なのです。

留学して間も無くコービッドの陽性反応が出て、10日間自己隔離しました。その時、いろんな人が助けてくれて、その結果として、毎日を大切にしたいと思える様になりました。

寮生活は6人で日本人3人、中国人一人、ヴェトナム人一人、アメリカ人一人でキッチンを共同で使います。

時間がある時はみんなで一緒にご飯も食べます。ハリーポッターも映画をこれから見に行きます。みんなが家族の様で、シットコムの中の登場人物の様な気がします。

今村さんとお話しして、SOASの留学生活を100%楽しんでいるという事が非常に良く伝わってきました。それと同時にしっかりと勉強し、世界的視野を最大限に広げ、良い社会づくりを目指している姿勢に触れて、非常に頼もしいと思うと同時に嬉しくなりました。

Ry?ta in his room in student accommodation

With his friends at the student accommodation

SOAS main building, Junior Common room and downstairs the SOAS bar

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