2019年度 活動日誌

3月 活動日誌

2020年3月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

3月のレポートは、私の研究課題の夏目漱石の足跡を漢詩から探る旅に関してです。

夏目漱石は新宿区に生まれ、住所は別ですが同じく新宿区で亡くなりました。漱石の精神的なテーマの一つである帰還―リターンという考え方にピッタリとあてはまります。

学生時代は漱石の漢詩の第一部なのですが、精神的に悩んでいた漱石は友人の勧めで鎌倉に禅の修行に参禅します。そこは円覚寺の帰源院というお寺で、釈宗円という臨済宗の禅師に指導を受けるのですが、このときは悟りを開くことはできませんでした。しかし、これを機会に漱石の禅への興味は一生、尽きることはありませんでした。

漱石は大学院を終え、東京の大学で英語教師をしていましたが、ふとした理由から四国は愛媛県の松山に英語教師として赴任することを覚悟します。ここは漱石の親友である正岡子規の故郷です。この地で漱石は俳句の世界に傾倒します。残念ながら、今回は四国を訪れる時間はありませんでした。

一年弱で四国を離れ、次に落ち着いた先は熊本です。漱石は熊本五校で英語教師として4年ほど勤務します。この時期は漢詩の第二期後期です。漱石は友人の長尾雨山から漢詩の指導を受け、長い漢詩(古詩)を詠む力を発達させます。このときに詠んだ古詩2句が後に小説、草枕に登場します。

草枕の創作の基礎となった前田家別邸に行ってみましたが、漱石が滞在した部屋が残されていて、入った温泉も保存されていました。草枕の作品が現実となって甦るような感じに浸れるような、時間が止まってしまう錯覚を受ける土地でした。

熊本の後、漱石はロンドンに立つのですが、その後は東京に帰ります。東京に帰って東京大学で英文学を教えますが、芸術家としての創作意欲の方が大きくなり、友人の勧めで小説を書き始めます。このとき文芸雑誌、ホトトギスに書いた「吾輩は猫である」が好評で、それをきっかけに大学講師をやめ、朝日新聞の専属の文芸アーティストとなります。

人気作家で多くの仕事をこなしますが、胃潰瘍を患い始め、それを直すために伊豆の修善寺に療養に行きます。ここで、一時は危篤状態になります。一命をとりとめ、体力が戻るまで、寝て静養するのですが、このときに詠んだ漢詩が第三期となります。

漱石が滞在した菊屋旅館を訪れ、喀血する前に泊まった部屋を訪ねました。修善寺から東京に帰り、回復時に朝日新聞に書き始めた「思い出すことなど」に、漱石が修善寺に泊まって、毎日ただひたすら床につき、空を見上げて漢詩を考えていた状況が、漢詩を挿入しながら説明されています。

漱石が眠れない夜中に聞いた修善寺の鐘もひっそりと時間を超えて存在していました。

3月はタイムトラベラーになったように明治期に連れ戻されたようでしたが、3月末にロックダウンされたロンドンに戻り、三月初めの日本に発つ前とは打って変わった街の雰囲気に、SFまたはホラー映画で人がいなくなったような錯覚を受けました。

Soseki’s birth place in Shinjuku

Street named after Soseki’s family name ‘Natsume’ in Shinjuku

Kamakura, Enkakuji temple

Kigen-in at Enkakuji, Kamakura

Maeda Villa in Kumamoto

One of Soseki’s haiku engraved on stone

Maeda Inn, hanging cloth featuring the beginning sentence from Soseki’s novel ‘Kusamakura’

Kikuya Inn at Shuzenji, Soseki’s room (Ume no Ma)

Kikuya Inn at Shuzenji, Soseki’s room (Ume no Ma)

Shuzenji Temple in Izu

Shuzenji Temple in Izu

2月 活動日誌

2020年2月29日
GJOコーディネーター 田口 和美

2月のレポートは、日本宗教学研究センターのイベントに関してです。

SOASには宗教哲学科があり、世界の色々な宗教の解釈や理解を広める努力が続けられています。

日本宗教学研究所がどういう活動をしているかは、次回に研究センターの責任者のルチア?ドルチェ教授にお話しを詳しく伺うとして、今月はその活動のひとつである定期的に行われるセミナーに関して少しご紹介しようと思います。

今回は、ドルチェ教授の指導の下で研究を進める博士号課程3年目の学生のエマニュエラ?サラさんによる研究課程途中の発表でした。エマニュエラさんの研究対象は山王神道で、日枝山(比叡山)の山岳信仰、神道、天台宗の関係を『耀天記』を軸として研究中です。日本でのフィールドワークでは、早稲田大学で中国の仏教経典を研究したそうです。

難しい経典を参照として、研究課程を発表するエマニュエルさんの将来の研究発表が楽しみです。

Emanuela Sala giving her talk at the seminar

1月 活動日誌

2020年1月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

1月のロンドンレポートはアメリカのテキサスA&M大学の学生21名がSOASに訪問のイベントをご紹介します。引率者は、先生で作曲家でもあり、尺八演奏者でもあるマーティー?リーガン先生です。

リーガン先生がヒューズ先生にリクエストしたことにより、この訪問が可能になりました。

音楽部の教室はテキサスA&Mの学生で埋まっています。ロンドン大学で聴講できるトークに学生はみんな興味津々です。

ヒューズ先生が、パワーポイントを使った、民謡に関する(例として江差追分などの楽譜を使った)全体的説明が30-40分ほどあり、その後は、SOAS民謡グループによる生演奏です。その中には、一川響さんの津軽三味線の演奏も入っています。

生演奏では、テキサスA&Mの学生も参加する場面がありました。

生演奏を聴いた後は、教室を変え、学生たちはその場で炭坑節を習い、SOAS民謡グループによる唄と演奏で、みんなで円になって炭坑節を踊りました。

テキサスA&M大学の学生たちは他にもいろんなところを訪問する予定だそうです。

イギリスには今までヨーロッパの学生が多かったのですが、欧州共同体を離脱し、これから変化していくだろうという予感を感じる年です。

Lecture on Minyo by Dr. David Hughes
Dr. Hughes explaining aspects of Minyo to students
Live demonstration by SOAS Minyo group with guest, Dr. Regan from Texas A&M University
Students participating in Minyo demonstration
Minyo demonstration
Tsugarushamisen demonstration by Ichikawa Hibiki
Students finish dancing to Tankobushi

12月 活動日誌

2019年12月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

12月のロンドンレポートは留学生の集いに関してです。

学期末の最後の週の水曜日に東京外語大学SOAS留学生2名、津田塾SOAS短期留学生1名、東京外語大学卒業生でUCL教育大学留学生1名、SOAS日本語学科卒業生1名でささやかな年末の集いを行いました。

手作りの料理を囲んで、みなさん初対面にもかかわらず話が弾みました。

ロンドンでの学生生活にも慣れてきて、ロンドンのクリスマスムードも手伝ってか、留学生活を満喫して楽しんでいるという印象を受けました。

来年も機会があれば、留学生の集いを行いたいと思います。



Students having a great time talking to each other while enjoying home-made food.

11月 活動日誌

2019年11月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

11月のロンドンレポートの一件目は、SOASで行われた日本の昔話やフォークテールを題材にしたお芝居を上演するバイリンガルのシアターグループ、ダウトフルサウンドについてです。2012年に日本で結成されたこのシアターグループは、お寺や日本庭園、フェスティバルなどあらゆる場所でお芝居を披露した経歴を持ちます。

メンバーは日本人とイギリス人の役者からなり、日本の地方訛りをつかって表現され、英語の字幕が背景に写されています。音楽はUKでのパフォーマンスではSOASの民謡グループが協力しています。

小さな限られたスペースで最小限の小道具をつかった「石川の女性たち」というお芝居は、不思議な話、おかしい話、悲劇などが入り混じり、独自の空間を作り出します。これからの彼らのシアターグループとしての展開が楽しみです。

Doubtful Sound performing accompanied by SOAS Minyo group

11月レポートの2件目は、国際旅行業界展示会、ワールドトラベルマーケットに関してです。

大規模な展覧会場で年に一回行われるこの展示会は、旅行業界関係者用に企画されたもので、世界中のいろんな国の観光地が参加し、自分たちの土地の観光を世界の旅行業界にむけて発信し宣伝する重要なイベントです。

日本からも数多くの県の観光課が参加して、東京オリンピックに向け、そのために設けられた東京2020のブースもありました。2020年は日本にとって、観光業界が通常以上にかなりの規模で賑わうであろうという予感を感じた展覧会でした。

Tokyo 2020 booth promoting the 2020 Tokyo Olympics

Mashiko Tourist Association promoting Mashiko Town, Tochigi Prefecture

From the left the Mashiko Town tourism Coordinator, the Mashiko Town Governor, the organiser of the Japan section and the President of the Mashiko Sake brewery

10月 活動日誌

2019年10月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

10月のロンドンレポートの一件目は、大英博物館のレクチャーシアターで行われた関西観光協会のイベントです。関西地区10県が一緒になって関西地方への観光の紹介と活性化を目的で行われたこのイベントは、一般向けではなく、限られた旅行会社やオリンピック関連の団体、チャリティー団体などが招待されていました。

関西各県の地理的説明や特徴や、見所が説明された後、舞子さんと芸子さんの踊りの素晴らしい踊りの披露がありました。

後のレセプションでは、ロンドン日本大使によるスピーチがあり、舞妓さんと芸子さんが出席者へのご挨拶回りの後、舞妓さん芸子さんの仕事がどういうものかということに関する質疑応答がありました。古い歴史を持つ職業で、舞妓さん芸子さんの立ち居振る舞いに、その歴史の重みを感じさせられました。大英博物館で見る舞妓さん芸子さんは全く違和感がありませんでした。

レクチャーシアターで踊りを披露する舞妓さんと芸子さん

第2件目は、大英図書館で開催された日本映画の上映会です。無声映画と弁師については以前、書きましたが、再度、古村朋子による弁師とクライブ?ベルとシルヴィア?ハレットによる効果音のコンビで小津安二郎の無声映画、「朗らかに歩め」(Walk Cheerfully)を上映しました。

小津安二郎通の多いイギリスですが、この日も例外でなく、大勢の観客がこのスペシャルイベントを見逃せないという意気込みで、会場に詰め掛けていました。

古村による軽快なテンポによる絶妙な弁師のトークと、すばらしい効果音で映画に魅せられた楽しいひと時でした。

弁師?古村朋子(左端)音楽担当?シルヴィア?ハレット&クライブ?ベル(右)

9月 活動日誌

2019年09月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

9月のロンドンレポートの一件目は、9月にベルリン?フィルハーモニー、ケルン、ブダペストでの公演の合間にロンドンを訪問し、ロンドン大和基金で、能について、及び現代音楽の中での能の在り方などに関してトークをしてくれた女流能研究家?パフォーマーの青木涼子さんについてです。

東京藝術大学音楽学部邦楽科能楽専攻卒業(観世流シテ方専攻)後、同大学院音楽研究科修士課程修了した青木さんは、ロンドン大学東洋アフリカ学院博士課程で「女性と能」についての論文で博士号(Ph.D)を取得するという実績の持ち主です。

青木さんは、平成27年度文化庁文化交流使に任命され、世界に対し日本の文化を発信する重要な人材の一人で、同時に港区観光大使としても広く活躍中です。

青木さんの芸術家としての活動を説明する場合、能楽師というよりは「能アーティスト」といったほうがわかりやすいようです。能は「舞」と呼ばれる舞踊と、「謡(うたい)」と呼ばれる歌謡からなる演劇ですが、青木さんはその謡を素材にして、現代音楽の作品をつくるという活動を続けています。

青木さんは、現代音楽の作曲家に曲づくりを委嘱して、謡の作曲をしてもらうという試みに挑戦し、この試みを「Noh×Contemporary Music」と命名し、4年間で16人の作曲家とコラボレーションをするという実績の持ち主です。これまでに50曲を超える作品が彼女のために作曲されています。ペーテル?エトヴェシュ、細川俊夫、ステファノ?ジェルヴァゾーニ、ホセ?マリア?サンチェス?ヴェルドウなど世界の主要な作曲家と共同で、能の声楽である「謡」を素材にした新しい楽曲を生み出しています。

青木さんは世界的規模で、主要な現代音楽の作曲家と協力し合い、能の物語を独特の詩のリズムで伝える役目を担う「謡」を素材にした新しい作品を、国内外で精力的に発表し講演中です。またその活動は、国内外のテレビ、ラジオ、雑誌、新聞の各種メディアに多数取り上げられており、2017年春の三越伊勢丹JAPAN SENSESのメインヴィジュアルに起用されています。

また彼女のための舞台作品も作られており、馬場法子作曲《Nopera AOI葵》を2015年にフランス、パリで世界初演を行っています。青木さんは、今、世界が注目している、古典的日本文化を見事に新しいものに作り替えてくれる重要な能アーティスト、パフォーマーであり、研究者です。

参考資料:https://ryokoaoki.net/

ロンドン大和基金で満員の会場でトークを行う青木涼子さん。 写真提供:ロンドン大和基金

第2件目は、音楽学部が主催したSOAS新入生歓迎イベントです。

沖縄音楽を披露するのは、新垣むつみさん、MINAさん、田村ゆうさんです。その一人、ロンドン在住の日本人とスイス人を親に持つMINAさんは、クラシックバイオリン奏者として訓練を受けたのち、表現されるメロディーのとらえ方を踏まえたうえでの西洋と東洋の音を使った音作りを探索しています。三線と唄は独力で習得し、現在、各種のプロジェクトを進行中です。新垣さんは、沖縄出身、在住のミュージシャンで、沖縄伝統音楽をベースに、エレクトロニクスを使った新しい音楽を追求し、その音楽にサウンドスケープを加え、音と映像が一体となって彼女の芸術を表現するパフォーマンス活動をしています。田村ゆうさんは、複合的分野のシアターとダンスを使って表現活動を行うパフォーマンスアーティストです。精力的なダンスパフォーマンスと同時にストーリーテラーでもあります。

歓迎イベントはそのほかに、印度、中国、中近東、そしてラテン音楽といろんな楽器が奏でるメロディーとリズムで学生を魅了していました。

写真左から、新垣むつみさん、MINAさん、田村ゆうさん。
「あさどやゆんた」の演奏で踊るのは、ロンドン沖縄三線会メンバー 


7月 活動日誌

2019年07月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

7月のロンドンレポートの一つは、大英博物館マンガ展に関する催し物第2弾をお届けします。この催しは一般人も入れるもので、夕方から始まりました。日本からデザイナーの山本寛斎さんを迎え、マンガ展を反映したファッションショーが設けられました。

そして、音楽では、津軽三味線の市川響さんとDJ高木さんのコンビが、山本寛斎作のコスチュームを纏い、大英博物館の彫刻の下でパフォーマンスを繰りひろげました。ギリシア彫刻と、布のデザインは日本的ですが、それと同時に中近東の民族衣装を思わせるようなアレンジは、本当にエキゾチックそのものです。それに加え、酒テイスティングもありました。これぞ真夏の夜の夢のような一瞬です。

Hibiki Ichikawa and DJ Takaki
In action
Hibiki Ichikawa, Kansai Yamamoto, DJ Takaki

もう一件は、SOAS日本語学科の学生と、東京外国語大学のオフィスから夏期研修で訪英中のスタッフとの語学交換を試みました。それに関してお二人からフィードバックをもらいましたので、語学交換に関するフィードバックをお伝えしようと思います。

SOAS日本語学科の学生は、朱玲じゅさんで、イギリスで生まれた中国人を両親に持つ学生です。彼女は今年の夏、大学を卒業しました。大学に入る前に日本語を学んでいましたが、SOAS入学後、本格的に日本語の基礎を学術的に学んだそうです。日本語の教授陣から精神面だけでなく、日本語の裏にある文化的背景を培う事が出来るように指導してもらったことに感謝しているそうです。

日本での一年間の留学生活は、神戸大学を選択したそうですが、もっと自由に日本語を日常で使う事を学ぶと同時にその地域の訛り、言い回し、そして直接地域文化に触れる事が出来、非常に有益な体験だったという事です。

留学生活で得た貴重な体験は、朱玲さんの日本語を話すことに自信を与えてくれたと感じるそうです。そして、語学交換に参加することで、会話の内容の変化に素早く反応できる力を維持していきたいという目的があります。

東京外国語大学のスタッフの谷口さんは、語学交換に参加した理由として、SOASが提供するサマーコースの学生は、みんな英語を学びに来た留学生なので、留学生のみで通じる英語になってしまいがちなので、ネイティブスピーカーと打ち解けた話をしたいと思ったという事です。語学交換をすることにより、授業や留学生同士ではわからない日常的な表現を学ぶことができ、大変貴重な経験になりました、という感想でした。

朱玲さんは、卒業後も機会があれば、語学交換をしたいという要望がありますので、機会があれば、又語学交換の機会を設けていきたいと思います。

Language exchange 1st day
Language exchange 3rd and final day

6月 活動日誌

2019年06月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

六月のロンドンレポートは、大英博物館で開催されている、マンガ展に関してお届けします。オープニングを祝って、メーンバーズナイトには、日本古典音楽の琴と尺八のデュエットと日本舞踊のパフォーマンスのイベントがありました。

メインコートにパフォーマンスの空間が設けられ、北村けいこさんの琴とマイケル?コックスヒル氏による尺八の演奏が始まると、観客がじわじわと集まってきました。ガラスの天井には青空が広がる中、会場内の琴と尺八による形而上的な自然の表現がゆったりとした雰囲気を醸し出しています。

その後は、日本舞踊が始まり、藤娘の格好をした舞踊家が、華麗に踊りを披露してくれました。素晴らしい着付けは、ロンドンで着物着付けを専門とするサービスを提供する『着物でGO』の責任者、佐藤まみこさんです。着物の布を洋風にアレンジしたドレスなども手掛けています。先月のレポートでお届けした、望月あかりさんの衣装はすべて桂子さんが手がけています。写真撮影やパフォーマンスに引っ張りだこの日本民族衣装の着物です。

Inner Court
Koto & Shakuhachi Duet
Fujimusume
Kimono Costumer (Kimono de Go!) & Dancer

展覧会の入り口では、不思議の国のアリスが出迎えてくれます。ちょうどウサギの郷の洞穴に入るような感じです。横には、アニメキャラクターのセーラームーンもたくさんのウサギといっしょに飛び跳ねて歓迎してくれます。入口の説明では、「不思議の国のアリスは日本の多くのマンガに影響を及ぼしましたい。うさぎの穴からあなたをマンガの夢の国への旅にご招待します。」とあります。

最初は、ウサギが飛び跳ねているところをモーションピクチャーのように描いた絵があります。これは、江戸時代の動画のスケッチを連想します。それから、軸にかかった水墨画のカエルとウサギのスケッチです。その横には、イラストレーターの岡本一平が描いた夏目漱石のスケッチが軸に収まっています。漱石が一平の漫画アーティストとしての才能を発見し、朝日新聞に紹介、1920年から30年代にかけてマンガ的なイラストを朝日新聞に掲載されたと説明されています。まずは、マンガを歴史的に捉え紹介してあります。後で、江戸時代の奇才、河鍋暁斎の大きな絵も壁いっぱいに展示されていました。

その後は、これでもかというくらいのマンガのイメージの紹介です。手塚治がTVモニターに流れていて、色々とアニメについて説明をしてくれます。もちろん、鉄腕アトムも立体イメージで展示されています。あしたのジョーの立体イメージもありました。

カムイ伝、ゴルゴ13、ドラゴンボール、赤塚不二夫のニャロメやイヤミ、萩尾望都の少女漫画、有名すぎる宮崎駿のアニメ映画、ポケモンなど、ありとあらゆるマンガが紹介してあり、本当にマンガ天国です。

コスプレコーナーも設けてあり、あなたもアニメの主人公になれます。日本の本屋さんの大きな写真があり、その中に入ると、仮設のマンガ屋さんで、マンガを手に取って見る事が出来ます。3Dでつくられた擬音語「ギャー」も展示してあります。

エンターテインメント性は十分ですが、それと同時に、もちろんアカデミックな面もあるマンガ展です。遊びのようなふりをして、学ばせようとする、イギリス的教育の素晴らしい所です。ちゃんと色んなメッセージがあります。

「思いつくままに描く」、「マンガのちから」、「マンガに際限なし」、「すべての人にマンガがある」、「過去からまなぶ」という風に分類されていて、歴史的マンガから現代のマンガまで、その美術的すばらしさ、物語性、進化性、多様性、適応力、グローバルにアピールできる力、表現をする場としてのプラットフォームとしての重要性などがあげてあります。

アニメ文化を分析したことはありませんでしたが、マンガの持つ人気の裏が垣間見れた気がしました。マンガ、アニメの持つ大衆性が、年齢や国籍を超え、広く世界の人に受け入れられた理由がわかるような気がします。小学生の時に見ていた「鉄腕アトム」がATOM BOYとして大英博物館で再開できるとは、夢にも思いませんでした。やはり、不思議の国のアリス現象です。

イギリスの国民性として存在する、子供のころの夢を大切にし、大人になってもその世界に戻れるようにという形式をとった、今回の展覧会を企画する想像力は、エキセントリックという部類に入る趣味人的性格を持ち、この”不思議の国のアリス”的な面が人をワクワクさせとりこにするといえるでしょう。


5月 活動日誌

2019年05月31日
GJOコーディネーター 田口 和美

五月のロンドンレポートは、ロンドンで演歌歌手として活躍する望月あかりさんのデビュー10周年記念のイベントの模様をお送りします。日本のテレビでも、海外で活躍する日本人として紹介されたそうです。

望月さんは、演歌歌手としての活動の傍ら、民謡デュオとして津軽三味線の一川響さんと活躍されていて、その活動の模様をロンドンレポートで以前取り上げたことがあります。いろんな国の文化イベントに引っ張りだこの民謡デュオです。

10周年記念のイベントは、大英博物館近くにある、日本レストランで開催されました。ぎりぎりで会場に到着した時は、すでにあかりさんファンでぎっしり詰まり、熱気むんむんの状態でした。

イベントの構成は、一部が演歌、インターバルの軽食タイムがあり、2部は歌謡曲となっていて、盛りだくさんの演目でした。

振り袖姿で登場した望月さんは、「天城越え」や「津軽海峡冬景色」など演歌の人気曲を7曲ほど披露され、曲の間にはお客様とのコミュニケーションもあり、リラックスした和気あいあいとした雰囲気の中、エベントは進行していきます。

インターバルでは、会場である日本食レストランで作られた、お寿司、たこ焼き、焼きそば、揚げ豆腐など、沢山の品がテーブルに並べられ、立食形式でふるまわれました。おなか一杯になり、満足感に浸ったところで、第二部の開始です。

二部では、和装からドレスに着かえた望月さんは、山口百恵や中森明菜などのヒット曲、それから彼女独自の物まねも披露し、ファンからはモッチーとして親しまれているようで、会場のあちこちから、モッチー、モッチーという大声援が続き、大変な盛り上がりでした。

男性とのデュエットでは、日本人男性だけではなく、イギリス人男性も日本語で熱唱してくれ、会場はさらに熱気に包まれます。

最後には望月さんのオリジナル曲を披露し、楽しいイベントは幕を閉じました。イギリスでは、カラオケも非常に人気があり、パブではカラオケナイトなどが企画され、英語版のカラオケ文化もかなり定着しています。これから、ますます、日本の演歌もイギリス文化に浸透してほしいものです。望月あかりさんはその素晴らしいアンバサダーといえます。

4月 活動日誌

2019年04月30日
GJOコーディネーター 田口 和美

4月のロンドンレポートは、SOASに関してお届けします。

SOASにはブルネイ王国から寄付されて建ったブルネイギャラリーという建物があります。寄付者に敬意を表してこの建物は名付けられたのですが、今、これが学校や学生たちの間で問題となっています。なぜ問題かと言いますと、ブルネイ国王が同性のカップルは、死刑にするという法律を宣告したからです。

ブルネイギャラリーは、講義、コンサート、コンフェレンスなどを行えるスペース、小さな美術館、そして屋上には日本風の庭園もあり、一般の人も気軽に入館できるようになっています。SOASにとっては非常に便利な建物です。

過去にブルネイはSOASに寄付をし、貢献してくれました。しかし、今回のブルネイ王国の同性カップルに対する人権をまったく無視した差別的態度は、あらゆる人種、宗教、思想、セクシャリティーが平等に存在し、理解しあう社会づくりを目指すSOASにとっては、絶対に許しがたい行動です。

現在は、ブルネイギャラリーの名前変更の動きとともに、SOASの同性カップルに対する支援と人権尊重を表明するために、大学の校旗の代わりに、レインボーの旗が閃いています。非常にSOAS的な表現だと思います。

View from SOAS side entrance
View from the Senate House entrance
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