コロンビアの貧困地域の子どもに日本文化を通じて平和教育~国際社会学部3年礒根知可さんインタビュー
外大生インタビュー

南米のコロンビアに約1年間の期間で長期派遣留学中の国際社会学部ラテンアメリカ地域/スペイン語3年の礒根 知可(いそね ちか)さん。エアフィット大学で国際経済学、コロンビア経済史などを学ぶ傍ら、メデジンの日本とコロンビアの文化交流サークル「メデジン日本クラブ」が主催するボランティア活動「サンタプロジェクト」に参加しました。礒根さんに「サンタプロジェクト」について伺いました。
────今日は、礒根さんが参加している「サンタプロジェクト」についてお話を伺いたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。
国際社会学部3年の礒根知可です。昨年(2024年)7月から今年(2025年)の5月まで、長期派遣留学でコロンビアのメデジンにあるエアフィット大学に留学しています。エアフィット大学では、国際経済学、コロンビア経済史などの勉強をしています。
────早速ですが、「サンタプロジェクト」とはどのような活動をしているボランティア団体なのでしょうか。
サンタプロジェクトは、演劇など日本をテーマにしたさまざまなワークショップやイベントを行うボランティア活動です。2009年から始まったこの活動は、2025年で15年目を迎えます。日本語の歌やセリフ、アクション、日本文化などを織り交ぜた演劇を、日本文化を学ぶ「メデジン日本クラブ」というグループの有志が中心となり、メデジン日本文化センター「春のひなた」の協力を得て作り上げます。
────さて、日々の劇の練習はどのように行うのですか。
8月からキャスティングを行い、そこから毎週土日の2日間を利用して、劇や歌の練習を行っていました。キャストの中で、私だけが唯一の日本人なので、他の学生に日本語のセリフを教えたり、逆にスペイン語のセリフを教えてもらったりと、協力しあいながら劇を完成させていきました。そして、12月にベレン公園図書館で公演しました。

────なぜ公演場所はベレン公園図書館なのでしょうか。なにか特徴のある図書館なのですか。
2005年にコロンビア共和国の当時の大統領であったアルバロ?ウリベ氏が来日したことを契機に、コロンビアの複数の大学と東京大学との間で学術交流が推進されました。公演を行ったベレン公園図書館は、東京大学大学院社会基盤学専攻の景観研究室が中心となって設計したものです。ここにも日本の貢献が見て取ることができます。

右:図書館に掲げられている記念プレート。東京大学の支援により設計されたことが記載されている
────公演はどのような方が観にいらっしゃいましたか?
公演は、基本的に誰でも無料で見に来ることができますが、地域の子どもたちや児童養護施設、国内避難民居住区の子どもたちなどが優先して招待されました。事前に広報した際に、この公演の取り組みに賛同してくださったお客様には、子ども向けのクリスマスプレゼントを持って来てくださるようにお願いしました。当日ご寄付いただいたプレゼントを、年齢や性別ごとに整理し、避難民が多く住む地区や児童養護施設の子どもたちに渡しました。

────サンタプロジェクトの目的を教えてください。
サンタプロジェクトは単に貧困地域の子ども達にプレゼントを届けるだけではなく、プロジェクトのメンバーが公演の前に国内避難民居住区や児童養護施設を訪れ交流することで、彼らから学ぶことも目的としています。
今年、私たちは避難民が多く住んでいる「アヒサル」と「モラビア」という地区を訪問し、子どもたちに折り紙や歌を教える日本文化のワークショップを行いました。そして、子どもたちをサンタプロジェクトに招待しました。子どもたちは異国の文化に興味津々で、触れ合っているうちになんだか自分の地元の子どもたちと接しているような気持ちになりました。この経験は、彼らを特別視せず、できるだけ彼らと同じ目線で触れ合うことの重要性を教えてくれたように思います。



避難民が住む場所は、急な斜面をのぼってたどり着く場所だったり、以前ゴミ溜めであった場所だったりと、アクセスが大変な地域にあります。まだ住むには設備が完全とは言えない部分もありますが、そんな中でも人々は素朴に、かつ逞しく生きています。ご近所さんとお話しして笑い合っている姿、重い荷物を抱えているのに道を譲ってくれる人など、人々の温かさと力強さを感じさせられました。
────コロンビアの国内避難民について、もう少し詳しく教えてくださいますか。
コロンビアでは、2023年末時点で510万人以上の国内避難民がいると言われています。これは全国民の約10%を占めています。政府軍、左派ゲリラ、右派ゲリラ、麻薬組織などが入り交った国内紛争が1940年代以降続いていました。元々は、保守?自由両政党間の政治思想的対立から始まったものですが、農村部の土地所有をめぐる地域紛争とも結びつき、各地で武力闘争に発展しました。その中で農村部の社会運動家やコミュニティリーダーなど、各勢力との接触が疑われる一般市民が、弾圧、殺戮の対象とされていきました。政治暴力の悪化と農村部での国軍、パラミリタリーと左翼ゲリラの並存状況によって、中立的立場を維持しにくくなった農民の多くが土地を追われ、強制移住民となったのです。
コロンビア政府は2016年に国内最大の左派ゲリラ「FARC」との和平交渉に成功するなど、平和に向けての進捗はあるものの、いまだに紛争の影響が払拭できていないのが事実です。さらには、隣国ベネズエラにおいても、近年の政情不安や暴力行為、食料や医薬品の不足などが深刻で、ベネズエラからの難民の数も増加しています。
国内紛争に巻き込まれ、大切な家族や友人を亡くした避難民の中には、復讐心に燃える人も少なくないと言われています。しかし、お互いに許し合い、殺し合いの連鎖を止めなければ、一向に平和は訪れません。これを伝えるために劇では許し合いや協力の大切さをテーマに話が作られています。また、子供たちが日本文化に触れることで、外の世界をみる機会を与え、視野を広げてもらうことも目的としています。2024年度の劇「クリスマス大作戦」においては、日本の妖怪チームと動物チームが、サンタさんとキリストのアシスタント役を巡って喧嘩を繰り返しますが、最終的には協力することの大切さに気づき、助け合いながらアシスタントをこなしクリスマスを成功させるというストーリーを演じました。
私は劇で、対立する2つのチームを常に宥めるサンタの秘書の役を演じました。お互いに許し合い、協力することの大切さを一番直接的に観客に伝える役だったので、かなり緊張しましたが、こうした重要なメッセージを自分の専攻言語で話せることへの幸せも実感しながら演じました。

────最後に、今回の経験を通じて感じたことを教えてください。
彼らの気持ちに寄り添いながら、日本文化と平和へのメッセージの発信に貢献できたらと願うばかりです。また、この活動を共有することで、コロンビアやメデジン、メデジン日本クラブについて関心を持っていただけたら嬉しいなと思います。
最後に、このサンタプロジェクトの代表を務めておられるメデジン日本文化センターの羽田野香里先生に、こうした貴重な機会をいただきましたことに心より感謝申し上げます。

参照
- コロンビアの大手新聞会社El Colombianoから取材を受けた際の記事
https://www.elcolombiano.com/cultura/teatro-una-navidad-japonesa-en-belen-LF26017518 - メデジン日本クラブWebサイト
https://medellinnihonclub.com/proyecto-santa/ - Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=41stArp_-Oo&t=149s - Instagram
https://www.instagram.com/reel/DEqtDSBxB23/?igsh=MWw2bGhjbmVleDAyaw== - 代表 羽田野香里先生のブログ
サンタプロジェクトを始めることになったきっかけが書かれています。
https://ameblo.jp/nihongo-club-medellin/entry-12230563040.html - Ganas のサンタプロジェクトに関する記事
- コロンビア貧困地域の社会課題に日本文化で挑戦! 男性が演じるかぐや姫で”結婚しない人生”を肯定
https://www.ganas.or.jp/20190226santa/ - 復讐を乗り越えるために「夢見る力」を! コロンビア内戦の子どもの被害者に向け坂本龍馬を上演https://www.ganas.or.jp/20200212ryoma/
- 平和を実現させるキーワードは「許す心」と「夢見る力」、コロンビア在住12年の日本女性が語ったこと
https://note.com/devmedia_ganas/n/n2b7f574fd5b9 - 以前のクラウド?ファンディングのページ
https://motion-gallery.net/projects/santa-project-medellin
- コロンビア貧困地域の社会課題に日本文化で挑戦! 男性が演じるかぐや姫で”結婚しない人生”を肯定